蒼穹楼

クレ海至上主義の管理人がおくる、妄想小説連載ブログ。

やさしいひと

短々編

思ったことを思ったまま、勢い任せにぶちまけた。そんな私に向かって、クレフは豆鉄砲を喰らった鳩のような顔をした。

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 不安だった。クレフはほんとうは、私のことなんか好きじゃないんじゃないかって。
 だって、たとえばフェリオは、風を見つけてはこっちがどぎまぎしてしまうような笑顔を見せるし、ランティスでさえ、駆け寄っていった光を本当に大事そうに包み込むのに、クレフは絶対にそんな態度は取らない。
”……ウミ”
 そうやって名前を呼んで微笑んでくれる瞳は確かに優しいけれど、それだけだ。優しいだけ。
 わがままだってわかってる。それでも、互いに想いを告げ合っただけでその後何一つ行動にその想いが表れないと、いくら私でも不安になる。しかも私たちの恋は、「遠距離恋愛」なんて言葉が軽々しく思えてしまうほどの距離に隔てられた恋だ。お互い自分の世界にいる間は、相手が何をしているのか知る術もない。たとえクレフが他の女の人と逢瀬を重ねていたとしも、私にはわからない。


 思ったことを思ったまま、勢い任せにぶちまけた。そんな私に向かって、クレフは豆鉄砲を喰らった鳩のような顔をした。そして困ったように苦笑いすると、何を言い訳するでもなく「少し付き合え」とだけ言って、さっさと先を歩きだした。
 訳がわからないまま、私は彼の後ろをついていく。今はもう小さくない体のクレフは、私なら早足にならなければならないほど歩くのが速い。今日は特にそうだった。ちょっと歩みを遅くすると、途端にクレフに離されてしまう。そしてまた早足になる。クレフがそんな私の様子に気づいていないわけはないのに、彼はちっともこちらを振り向かない。
 いつもは、私に合わせてゆっくり歩いてくれていたんだ。そんなことにいまさら気づかされて、私は胸がきゅんとなった。

 どれくらい歩いたのか、ようやくクレフが立ち止まった頃、私はすっかり息が上がっていた。
「……ウミ」
 名前を呼ばれて、私は両膝に当てていた手と一緒に顔を上げた。すると、数歩の距離のところにいたクレフが、目の前に聳える大木に片手を当て、愛おしいものを見るような瞳でその木を見上げていた。
 どくん、と鼓動が大きく高鳴った。はっとして辺りを見回す。そしてこの場所に、目の前の大木に確かに見覚えがあることを確信した。
「お前が『異世界』へ帰ったあと、私はいつもここに来る」
 徐にクレフが言った。
「えっ?」
 問い返した声は裏返った。クレフが、大木に手を当てたまま私の方を見る。まっすぐ射抜くような視線に、私の鼓動はどんどん速くなっていく。
「ここは、お前の『気配』で溢れているからな」
 そう言って、クレフは眩しそうに目を細めると木を見上げた。そのクレフの視線に応えるように、木の葉が風に揺れて囁き合った。

 なんとなくデジャヴなのは、以前もここに彼と来たことがあるからだ。思えば、あれからもう一年が経った。あのとき、私は本当に心臓が爆発すると思った。人生であれほど緊張したことはなかったし、あれほど呼吸が苦しいと思ったこともなかった。
 この木の下は、私にとって「特別」な場所だった。彼に想いを告げた場所であり、同時に、彼が想いに応えてくれた場所でもあったからだ。

 その場所に、クレフは「いつも来る」と言う。
「……ウミ」
 再びクレフがこちらに視線を戻す。私はただ、黙って彼の次の言葉を待つことしかできなかった。
「私は、お前が思うような私ではない」
「……え?」
 思いがけないクレフの言葉に、私は目を丸くした。そんな私の反応を見てか、クレフが自嘲気味にくすりと笑った。
「私を優しいなどと言ってくれるな。私は、その取り繕った『優しさ』で、心の奥にある醜いものを隠しているだけにすぎん」クレフは静かに瞼を下ろした。「……お前を、壊してしまいたいと思うことも、ある」
 瞬きも忘れて、私はただクレフを見ていた。彼がそんなことを考えていたなんて、これっぽっちも知らなかった。いつも冷静沈着で、何が起きてもまったく動じないひとだから、彼が心動かされることなどあるのだろうかと疑問に思ったことさえあったというのに。

 クレフがじっと私を見た。
「お前にはわかるまい。私が、どれだけお前のことを想っているか」
 口から心臓が出てきそうだった。昼ご飯を食べたのは三時間も前のことなのに、まるで食道まで食べ物が詰まっているかのように苦しい。そうしているうちに、本当に食堂のあたりが締め付けられるように痛んできた。私は自分の胸元を両手でぎゅっと握りしめた。
 そんな私を見て、クレフが目を細める。
「言葉でなど、言い表せられない」
 私の唇が震え出した。
「お前が、ただ、愛おしい」
 瞬きをすると、頬を冷たいものが伝った。そしてそれがすべての合図であったかのように、私はクレフのもとへと駆け出した。
「ばか! ばか、ばか、ばか!!」
 走った勢いをそのままぶつけるように、クレフの胸板をひたすら叩いた。相当強い力で当たったはずなのに、クレフがよろめいたのは一瞬だけだった。
「ウミ……」
「どうして言ってくれなかったの?! 私、ひとりで不安になって、ばかみたいじゃない! こんな……こんなところにひとりで来るなんて、クレフ、あなたって本当にばかよ……!」
 そう言いながら、私がほんとうに責めていたのは私自身だった。クレフのことを疑ったりして、私はなんて愚かだったんだろう。彼はいつだって私のことを大事にしてくれていた。いつだって私を見守り、いつだって私を愛してくれていたのだ。

「……すまない」
 それ以上胸板を叩くことはできなかった。クレフが、びっくりするほど強い力で私のことを抱きしめたからだ。
 クレフの匂いが、体温が、私を奥まで侵食する。
 人の体って、こんなに温かいんだ。私はその温もりを味わうようにそっと目を閉じ、クレフの肩口に顔を埋めた。

 本当に息苦しくなってきた頃、クレフがようやく腕の力を緩めた。
 頬に彼の手が触れる。促されるようにして顔を上げると、親指で私の目から零れる涙を掬ったクレフが、優しく微笑んでいるのが見えた。
 涙を掬った手が、今度は私の頬を包む。私はそっと目を閉じた。

 クレフは、彼の優しさは「取り繕ったものだ」と言ったけれど、そんなのは嘘っぱちだ。私は強くそう確信した。だって、彼がくれた初めてのキスは、優しさの塊でできたみたいに甘かったから。




やさしいひと 完





かの有名な超純愛漫画、『君に届け』の18巻を読み終えて即書いたのがこの『やさしいひと』です。
爽子と風早くんの二人がどうしても海ちゃんとクレフにしか見えないという、重度のクレ海病に罹患しておりますw
ここまで読んでくださってありがとうございした^^

2013.01.27 up / 2013.06.22 revised




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篁かすみ(たかむら・かすみ)と申します。
都内某所にひっそりと生息。
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