蒼穹楼

クレ海至上主義の管理人がおくる、妄想小説連載ブログ。

恋は終わらないずっと

短々編

空を見上げるのも辛い。この蒼は、あのひとの瞳を思い起こさせるから。

本文は「続きを読む」からどうぞ。





「……もう一度セフィーロに行きたい」
 空を見上げながら言った光に、風が穏やかに微笑んで頷いた。

 そんな親友二人の横顔を、私はちらりと盗み見た。二人とも、空に浮かぶ新しいセフィーロの景色に満足げに目を細めている。幸せそうに笑う二人を見て、私も自然と笑顔になる。それでも、ふとした瞬間に心を掠める「切なさ」だけはどうしようもない。

 二人が羨ましいと思ったこともある。風は最初からフェリオと恋人同士だったし、光も、最後にはランティスと両想いになった。しかも、彼女たちはそれぞれ愛する人から貰ったものを持っている。風はオーブを、光は手鏡を。だけど、私は告白もできなければ何かを貰えることもなかった。そんな私は、こうして東京タワーから景色が見えるだけでは満足できない。もう一度会いたい、どうしても会いたい――。
 一年以上ずっと願っているのに、その『願い』は叶いそうにもない。これがセフィーロだったら、これほど強い『願い』であるのだから簡単に叶えられそうなのに。

 空を見上げるのも辛い。この蒼は、あのひとの瞳を思い起こさせるから。今ごろ彼はどうしているだろう。相変わらず少年の姿をして、眉間に深い皺を寄せているのだろうか。どんな表情でもいいから、一目見たい。そして今度こそ、この溢れんばかりの思いを打ち明けたい。

「……なら、じゃなかったから……」
「え?」
 思わず口をついて出た言葉に、光が反応した。目が合って、ちょっとどきりとする。誤魔化すように視線を逸らし、私は欄干を掴む自分の手に目を落とした。
「『さよなら』って、言わなかったじゃない? 私たち」
 はっ、と隣で二人の親友が息を呑む音が聞こえる。私は顔を上げて、微笑んだ。
「だから、きっと、また会えるわよ」
「……そうですわね」
 瞳を潤ませて、風が答える。そんな彼女の表情に、胸の奥から込み上げてくるものがあったけれど、ぐっと堪えた。

「さ、そろそろ行きましょ」私は声のトーンを上げて言った。「風先生に特別課外授業をしてもらわなくちゃ。期末試験まであと一週間だもの」
 吹っ切るように空に背を向け、私は風に向かってウィンクをしながら歩き出した。
「あ、待って、海ちゃん!」
 光がぱたぱたと駆け寄ってくる。と、そのとき、不意に目の前に大きな影ができて私は立ち止まった。
「あ……あの!」
 見上げると、一人の男性が立っていた。着ている制服から、都内有数の男子進学校の生徒だとわかる。黒縁眼鏡は典型的な優等生のトレードマークなのに、そこにほんのりと紅く染まった頬は不釣合いだった。呆気に取られていると、彼が私に向かってぐっと両手を衝き出してきた。ぎょっとして見ると、ぷるぷると震える手に封筒が握られていた。宛名に、「龍崎海様」と書いてある。
「お……俺と、付き合ってくれませんか! 君のこと、ずっと見てて……その、す、すごくタイプで!」
 後ろで風が「まあ」と言うのが聞こえた。続いて光が「海ちゃん、ほんとにモテモテだね」と、彼女にしては小声で言う。もう、聞こえてるって。私は心の中で突っ込んで、思わず苦笑した。

 こういうことは珍しくない。時には放課後、校門の前で私が帰るのを待ち伏せしている人がいたりすることもある。最初こそ、光も風もびっくりしていたけれど、最近ではもう慣れてしまったようで、終わるまで待ってくれている。――そう、いつも、誰に告白されてもすぐに終わってしまう。なぜなら答えが決まっているから。
「ごめんなさい。私、好きな人いるから」
 行きましょ、ともう一度言って、私は光と風の腕を引っ張りながら小走りに展望台のエレベーターへ向かった。男子生徒のことは極力見ないようにした。不可抗力とはいえ、断った瞬間に誰もが見せるあの傷ついた子犬のような顔は、何度見ても慣れない。罪悪感につまされるのが厭で、私はいつも、告白を断った後は相手の男の人とは目を合わせないようにしている。

「海さんの人気は、衰えるところを知りませんわね」
 感慨深げに風が言った。
「ほんとだよね。芸能人も顔負けだよ!」と光が続けた。「……それにしても、前から聞こうと思ってたんだけど、海ちゃんの好きな人って誰なんだ?」
 きょとん、と光が首を傾げる。私はすぐには答えず、開かれた展望エレベーターに乗り込むとボックスの奥に陣取った。
「さあ……誰かしらね」
 狐につままれたような顔をして、光が乗り込んでくる。一方で、最後に乗ってきた風は微笑んでいた。打ち明けたことはないけれど、風はきっと、私の「好きな人」が誰なのか薄々感づいているのだろう。風はそういう勘がほんとうに鋭い人だ。

 私はエレベーターの向こう側に辛うじて見える青空に目を細めた。この蒼を見るのは、確かに辛い。それでもいつも見てしまう。見続けていたらいつか彼の笑顔がそこに浮かぶんじゃないかという、淡い期待を抱きながら。
 さよならなんて、絶対言わない。また会えるって、信じてるから。
「そうだな」って、空が言った気がした。心の中で、私は指切りをした。




恋は終わらないずっと 完





表題にもなった、MISIAの『恋は終わらないずっと』という曲をモチーフにしたお話です。
この曲、ほんとうにクレ海にぴったりなんですよ! 皆さんも是非聞いてみてください。
ここまで読んでくださってありがとうございました^^

2013.05.04 up / 2013.07.12 revised




web拍手 by FC2

コメント

コメントを投稿


管理者にだけ表示を許可する
 

トラックバック

TB*URL

PrevEntry |  to Blog Top  | NextEntry
What's new?
ほそぼそと、また連載再開してます。月一くらい目指せればと。

▶ 連作短編集を始めました。クレ海学生パラレルです。今後年中行事に合わせて不定期更新の予定です。詳しくはこちらからどうぞ。

▶ こちらは作品展示専用です。コメントへのお返事は別ブログにて行っております。
カテゴリー
最新記事
月別アーカイブ
全記事表示
Counter
プロフィール

篁かすみ

Author:篁かすみ
篁かすみ(たかむら・かすみ)と申します。
都内某所にひっそりと生息。
寝ても覚めてもクレ海のことを考えています。

このブログは作品展示専用です。
いただいたコメントへのお返事は別ブログにて行っております。
どうぞお気軽にコメントお寄せくださいませ^^

 

Copyright ©蒼穹楼. Powered by FC2 Blog. Template by eriraha. Photo by sozai-free 2000px.