蒼穹楼

クレ海至上主義の管理人がおくる、妄想小説連載ブログ。

『WITH』 フェリオ

語り

クレフと『レイアース』の登場人物との関係を考察するシリーズ「WITH」。
第四弾はフェリオでいきます。

フェリオって……実は、私にとっては『レイアース』の登場人物の中でも群を抜いて謎多きキャラなんです。
クレフとの関係、エメロードが『柱』であった時代の位置づけ等々ありますが、中でも最大の謎は、「果たして彼は『魔法騎士の伝説』に隠された真実を知っていたのかどうか」。

原作を見る限り、『伝説』の真実を知っていたとはっきり言えるのは、『柱』であったエメロード本人を除けばクレフとランティス、それにザガートの三人だけのように思えます。魔法騎士のために武器を創るという大役を果たしたプレセアでさえ「知らなかった」とはっきり言っていますから、どれほどの極秘情報だったかは見て取れるわけですが、フェリオが知っていたかどうかに関する明確な記述ってありませんよね。

※アニメでは、フェリオは記憶を消されていたという設定なので論外。ということで、ここでは原作を前提に話を進めます。

ここは是非、フェ風ファンの方のご意見を伺いたいところではあるのですが、原作から手に入れられる情報を元に私が出した結論は、「フェリオは『伝説』の真実は知らなかった」というものです。

『沈黙の森』で風たちと初めて対面したフェリオは、彼女たちが『魔法騎士』だと知ったうえで、「どうして『魔法騎士』が『異世界』の人間でなければならないのかは俺にもわからない」と発言しています。仮に『魔法騎士』の役割が「『柱』を殺すこと」であるとフェリオが知っていたとしたら、こんな発言はしないはずですよね。

まあ、これはフェリオが風たちの気持ちを慮った上で吐いた「優しい嘘」であったという可能性も大いにあるわけですが……
でも、フェリオはそんな嘘つかないかなって。そもそも、『伝説』の真実を知っていたとしたら、『魔法騎士』になれないかと自ら『エテルナ』に赴くという危険な行動には出なかったでしょうし。

『伝説』の真実を知らなかったと仮定すると、しかしそれはそれでフェリオにとっては複雑なことこの上ないですよね。風たちと別れたフェリオはクレフのいるセフィーロ城へ向かったんでしょうが、そこで初めて『伝説』の真実を聞かされ、姉の死に直面するんですから。

フェリオは、風たちが「クレフに会った」と言ったのを聞いて凄く驚きますよね。「あのセフィーロ最高位の魔導師に会ったのか」と。ということは、少なくともフェリオにとってはクレフという人は滅多にお目に掛かれるような人ではなかったということです。仮にも王子であったフェリオでさえ、滅多に会えない人。クレフの位の高さが垣間見えますね。

クレフは、ろくに城に拠りつかず剣の修行や昼寝にばかり精を出していたフェリオを、それでも優しく見守っていたんだと思います。そして、それはエメロードの『願い』でもあったのではないかと。
『柱』である以上、エメロードはセフィーロのために祈り続けることしかできません。だからこそエメロードは、たった一人の弟であるフェリオには「自由に生きてほしい」と思っていたんだと思います。そして、そのエメロードの意志をクレフは大切にして、引き継いでいたんでしょう。

でもね……個人的に、フェリオとクレフのツーショットは書きにくいです。二人の上下関係や口の利き方がよくわからなくて。
フェリオはクレフに対して常に敬語ですが、原作では、クレフがフェリオに対してどのような口調で話し掛けるのかわかりません。
アニメではランティスたちに接するときと同じような調子で話していたので、それでいいのかなと思いますが、問題は、クレフがフェリオのことをなんと呼ぶのかということなんですよ。「フェリオ」と名前で呼ぶのか、それとも「王子」と呼ぶのか。

他の二次創作サイトさんなんかを見ていると、クレフのフェリオに対する態度って、結構「敬語」且つ「王子呼び」なところが多いんですが、なんか違う気がするんですよね……。
少なくとも、口調はランティスたちに対するときと変わらないんだろうと思います。ただ、じゃあだからと言ってクレフがフェリオを「フェリオ」と呼ぶのがしっくりくるのかというと、これもまた何かが違うような気がして。

でも、「王子」って呼んでおきながら口調は通常っていうのはやっぱりおかしいと思うので、うちのサイトでは「フェリオ」呼びでいこうと思います。


……うーん、でもやっぱり、フェリオって『伝説』の真実を知ってたのかなぁ;
確かに、三人娘と初めて会って、彼女たちが『魔法騎士』だと知ったときのフェリオに時々浮かぶ「影」が引っ掛かると言えば引っ掛かるんですよね。「エメロード姫の知り合いだ」と、自分の正体を濁したのも、後々になってフェリオのことを思い出した風が、エメロードを殺すことを躊躇わないようにと配慮したのかもしれないし。

わからないです。どっちもアリな気がする。とりあえず今のところは、というかこの「WITH」の中では、「フェリオは『伝説』の真実を知らなかった」ということで行かせてください。
フェ風ファンの方、是非ともご意見くださいませ!


この「WITH」シリーズを書いていて思うのは、私って本当にクレフが好きなんだなぁということですw
ぶっちゃけ、このサイトを始める前は、クレ海以外のレイアースのカップリングとかキャラクターってどうでもいいと思っていたんですよ(爆)。ただ、クレフが関わってくると途端にどうでもよくなくなってしまうんです。クレフとの関わりを考えるだけで、ストーリーがどんどん浮かんできてしまうという。

さりげなくとんでもないこと言ってますねw このままいくとぶっ飛びそうなので、さっさと切り上げて本日も小話へいきましょう。
フェリオとクレフのお話です。原作の第一部から第二部の間の出来事を、捏造(妄想)して書いています。「続きを読む」からどうぞ。





『生まれついた運命(さだめ)』

 ついぞ感じたことのないような強い胸騒ぎが、フェリオの鼓動を速くしていた。『異世界』から招喚された『魔法騎士』たちと共に、『沈黙の森』で魔物やザガートの手先と戦っていたときでさえ感じなかったほどの胸騒ぎだった。――何かとんでもないものが近づいている。長く修行を積んできた「剣士」としての勘が、そう告げていた。
 今フェリオが歩いているのは、『聖なる場』のひとつである『精霊の森』だ。数年ぶりに戻ろうとしているセフィーロ城へは、この森を抜けるのが一番近道である。それはこの森に足を踏み入れた大義だが、もうひとつ、『精霊の森』であれば魔物が闊歩する心配が少ないと思ったことも、この森を通っていくことを決めた一因であった。

 歩き始めはよかった。だが、幾らも歩かぬうちにフェリオは明らかな異変に気が付いた。空が突然暗くなり、雨が降り出し、地面が地響きを起こしながら割れ始めたのである。それが他の地ならばいざ知らず、この森は『聖なる場』のひとつだ。そんなところでこのような異変が起きる理由は、ただ一つしかない。この地の安定を支えている『柱』――つまり、姉エメロードの身に何事かあったのだ。
「……姉上……」
 フェリオは腕で雨を避けながら、天を仰いで顔を顰めた。

 これまでも天変地異や魔物の出現はあったが、これほどまでに地が荒れ狂ったことはない。エメロードの身に、これまでとは比べ物にならないほど決定的な「変化」が訪れたことに疑いの余地はなかったが、それは『魔法騎士』たちと、たとえ僅かな時間であったとしても接触を持ったフェリオにとっては信じがたいことだった。『柱』を救うべく招喚された『魔法騎士』たちの心の強さは、十二分にわかっている。『沈黙の森』で出逢ったとき、彼女たちは確かに未熟ではあったが、今後間違いなく強くなるであろうことを感じさせるものがあった。そんな彼女たちが、「『柱』を救う」という最終的な目的への道半ばで朽ちたということはあり得ない。あり得ないし、あってほしくない。それなのに、なぜ今、セフィーロはこれほどまでに荒れているのだろう。

 立ち止まり、地面に視線を落とした。雨に濡れた所為で衣服が重い。
「……フウ」
 その名を紡いだのは、ほとんど無意識のうちだった。


 どうして「あんなこと」をしたのか、自分のことながらフェリオは驚きと戸惑いを覚えていた。エメロードから託されたリングの片割れを、別れ際、フェリオは何の躊躇いもなくあの金髪の少女に渡していた。
 「いつか大切な人ができたら差し上げなさい」。エメロードにそう言われた幼きあの日から、もううんざりするほど長い時間が流れたが、これまでそのリングを渡したいと思った相手は一人もいなかった。女と関わる機会がなかったわけではない。中にはずいぶんと長い時間共に修行の旅をして歩いた女剣士もいたが、その女に対しても、あのリングを渡したいとは思わなかった。それを、まさかほんの数時間共に行動しただけの女に渡すことになろうとは、一体誰が想像しただろう。
 彼女が『魔法騎士』だからというわけではない。彼女の、風のそのまっすぐで強い『心』に、フェリオはいつしか惹かれていた。


 フェリオは俯いていた顔を上げた。こんなところで立ち止まっているわけにはいかないのだ。風はきっと生きている。生きて、今も戦っているに違いない。彼女の『心』に負けない強さを、自分もまた手に入れなければならない。いつか再会したとき、きっと一層強くなっているであろう彼女たちと、堂々と向き合えるように。

 ずっと避けていたセフィーロ城へ向かおうと決意することができたのも、風との出逢いがあったからこそだった。「これは、私たちの戦いです」。ザガートの手下に攻め込まれて苦戦していたとき、俺に助けを求めることは容易だったはずなのに、その道は選ばずにそう言い切った風の横顔に、強く心を揺さぶられた。――逃げてはいけない。自らに課せられた運命(さだめ)から、逃げてはいけない。そう言われているような気がした。

 『王子』と呼ばれることに辟易して城を出てから、もう何年の月日が流れたかわからない。飛び出してしばらくの間は、城から追手が来ないことがひどく不気味だった。誰かしらやってくるに違いないと思っていたのだ。
 城で暮らしていたときでさえ、嫌いな勉強から逃れるため、「ここなら見つかるまい」とどんなにあり得ないようなところに隠れていても、最後は必ず導師クレフに見つかってしまっていた。セフィーロを誰よりも熟知している彼がフェリオを野放しにしておくわけはないと、城を飛び出したとはいえ、最初から半ば諦めてはいたのだが――半年が経ち、一年が経っても追手はおろか、便りの一つさえ届かなかった。

 ついに見放されたのだと思った。王子としての器ではないと、導師クレフも俺を見限ったのだと。それならばそれでいいと開き直り、今日までずっと剣術の修行を続けてきた。いつの日か、エメロードの身に危険が迫ったとき、自分自身が『魔法騎士』となって彼女を救うことができるように。


 ようやく天辺の辺りが見えてきた城に向かって、フェリオは駆け出した。ぬかるみに何度も足を取られそうになるが、決して走る速度は緩めない。
 フェリオは心の中で自分自身を叱咤していた。「導師クレフは自分を見限った」とずっと考えてきたが、それは言い訳に過ぎなかった。彼が自分を見限ったのではない、自分が彼を裏切ったのだ。

 生まれたときにはすでに『王子』だった。エメロードは『柱』としてその地位を固めており、両親は、フェリオが生まれてすぐに他界した。そんな自分を導師クレフが温かく見守り続けてくれていたことは、他でもないフェリオ自身が一番よくわかっている。両親の記憶がないフェリオにとって、クレフは父親も同然だった。誰もがフェリオのことを「王子」と呼ぶ中で、彼だけは「フェリオ」と呼んだ。あの落ち着いた声で名を呼ばれるとくすぐったかったのを、今でも昨日のことのように思い出すことができる。

 そのクレフを、自分は裏切った。ある日突然城を出て、そのまま行方知れずになり、それこそ便りの一つも出さなかった。いつも待つばかりで、自分から行動しようとはしてこなかったのだ。
 受け入れてくれるかはわからない。だが、フェリオは今、どんなときよりも強く自分が『王子』なのだということを自覚していた。生まれついた運命からは逃げられない。どこで暮らし、どういった人生を送ろうとも、自分がエメロードのたった一人の弟でありこの国の『王子』であるという事実は変わらない。逃げられないのならば、その運命ととことん向き合うしかないのだ。

 走る速度を速めようとした、そのときだった。背後から爆風が吹いてきて、フェリオは前につんのめった。
「うわっ!」
 突然のことに混乱する。雨も混じり、視界はクリアにならない。正面に大木が聳えていることを気配だけで察知して、咄嗟に脇へ避け、正面衝突することだけはなんとか避けた。バランスを取り戻し、ぬかるんだ地面に着地する。何が起きたのかと背後を振り返って、フェリオは二の句を告げなくなった。

 次から次へと雷が落ち、『精霊の森』を無惨にも切り刻んでいた。雷はどんどんフェリオの方へ迫ってくる。「逃げなくては」と頭の中では声がするのだが、体は一向に動かなかった。まるで金縛りにあったように、追ってくる雷から目が離せない。
 雷が落ちているのは『精霊の森』だけではなかった。セフィーロ全体が、まるで崩壊への一途を辿るかのように、容赦ない光に攻撃されていた。それは、長い間厳しい修行を積んできたフェリオでさえも見たことのない、恐ろしい破壊力を持つ『光』だった。
「……な、んだ……」
 掠れ声で言ったとき、フェリオは不意に、耳の裏を撫でるそよ風を感じて振り返った。そして、目に飛び込んできた光景に、いよいよ自分は雷に打たれて死んだのだと錯覚した。

 開けた空に、見たことのない大人の姿をしたエメロードの幻影が浮かんでいた。彼女はフェリオが知るどんな表情よりも穏やかな笑顔を浮かべ、一人の男に寄り添っていた。その男に、フェリオは確かに見覚えがあった。言葉を交わした回数は少ないが、一目見ただけで、この男ならば姉を任せらると安心できたほど強い『心』を持った男だった。確か、彼の名は――
「ザガート……」
 呟いた声は掠れていた。

 その幻影のように手に手を取り合う二人を、当然のことながらフェリオは見たことがなかった。しかし今、二人はあくまでも幸せそうで、そうしているのが当たり前であるかのようにさえ見えた。
『ザガート……やっと、あなただけのものに……』
 フェリオは自分の耳に届いた声を疑った。だがそれはエメロード以外の声ではあり得なかった。なぜなら、その声が聞こえた直後、消え行く幻影の中で彼女がこちらを確かにまっすぐに見て、
『フェリオ……どうか、あなたの愛する人と、生きて、幸せに……』
 と言ったからだ。
 そしてエメロードは、最後にまたザガートを見上げた。見つめ合った二人が優しく微笑んだのを最後に、幻影は消え去った。


 呆然と空を見上げていたフェリオだったが、殺気を感じてはっと振り返った。すると、地を割る雷がもう目と鼻の先に迫っていた。
 ――やられる。そう思っても、フェリオの心持は不思議と落ち着いていた。自らの頭上に落ちてこようとしている雷の存在を認めても、あくまでも冷静だった。何がそこまで自分自身を冷静にさせているのかわからない。ただ、今しがた見たエメロードの幻影が、フェリオの中に流れる「時間」を止めているような気がした。

『フェリオ!』
 だが、フェリオがそのまま雷に打たれるということはなかった。エメロードのそれとは違う、しかしやはり懐かしい声に呼ばれたその刹那、フェリオの視界は真っ白になり、体が捩じられるような感覚に沈んだ。抵抗する術を持たず、フェリオはそのまま身を預けるしかなかった。決して心地よい感覚ではないはずなのに、それはなぜか、母親の胎内にいるかのような安心感のある感覚だった。

***

「急げ、こっちだ! 早くしろ、そこも危ないぞ!」
「居住区に人は残っていないか?! 確認しろ!」
「とにかく大広間に人を集めるんだ! 導師クレフに指示を仰ぐしかない!」
 遠くからくぐもって聞こえる人々の叫び声や足音が、フェリオの意識を深いところから浮上させた。
 ゆっくりと開けた目には、二つのサファイアの輝きが飛び込んできた。決して短くない旅をしてきたが、今までそんなに綺麗な宝玉を見たことはないと思った。フェリオは一度瞬きをした。

「気が付いたか」
 その宝玉が、かつては毎日のように見ていた少年の瞳だと気づいたのは、彼の声が耳に届いたときだった。訳がわからずその瞳を見つめ返すしかないフェリオに、彼は曖昧な苦笑いをして見せた。
「手荒な真似をしてすまなかった。ああでもしなければ、そなたは粉々に砕けてしまうと思ってな」
 これは夢か、と思う。だが、申し訳なさそうに眉尻を下げた彼は、「彼」以外ではあり得なかった。
「……導師、クレフ……」
 少年はこくりと頷いた。

 ようやく現(うつつ)に戻ってきた意識で、フェリオは辺りを見回した。そしてその部屋に見覚えがあることに気づく。かつて一度だけ通された、エメロードが祈りを捧げるために使用している『祈りの間』であった。短い階段の上には、天蓋つきの、開いた花のような形をしたソファが置かれている。そこに座ってエメロードが祈りを捧げる様子が、まるで神話か何かを見ているように美しかったことを、昨日のことのように覚えている。だが、そこに今エメロードの姿はなかった。
 フェリオがいるところは、そソファへと繋がるの短い階段を下りてすぐのところだった。椅子とベッドのいいとこ取りをしたようなものの上に横になっていて、上半身は僅かに傾いている。そのフェリオのすぐ傍に、クレフは立っていた。

「手荒な真似をしてすまなかった」
 つい今しがたのクレフの言葉を思い返して、フェリオはそういうことか、と合点がいった。あの、雷に当たる直前に聞こえた声は確かにクレフのものだった。クレフがあの場から自分を助け、ここに連れてきてくれたのだろう。
 まず礼を、と思うのだが、言葉は声にならなかった。聞くも恐ろしいが聞かなければならないことがあると、フェリオはわかっていた。ただ、それをどう言葉にしたらいいのかわからない。フェリオは黙ってクレフを見つめた。クレフの瞳が一度ぐらりと揺らいだように見えた。
「そなたが、『魔法騎士』たちに自身がエメロード姫の弟であると告げなかったことは、賢明であった」
 独り言のようにクレフが言った。それはフェリオにとっては意外であり、核心からほど遠い言葉でありながら、同時にフェリオの抱いていた疑問に完璧に答えうる言葉だった。


 脳裏に、あの金髪の少女の笑顔が浮かんだ。彼女たちに自分がエメロードの弟であると告げなかったのは、単に自分が『王子』であると知られることを嫌ったからだったが、当時の自分の何気ない選択は、一歩間違えていれば多くの人の運命を狂わせていたかもしれなかったほどの大きな選択であったのだ。フェリオがエメロードの弟であると知っていたら、『魔法騎士』たちは――特に風は、自らに課せられた運命と向き合うことはできなかったかもしれない。
 フェリオは上半身を起こし、再びクレフと視線を交わらせた。――この人は、泣いたのだろうか。ふとそんな疑問を抱いたが、クレフの表情からその答えを得ることはできなかった。

 フェリオはクレフから視線を外した。
「……導師クレフ」
 ずぶぬれだったはずの自分の体がすっかり乾き、見たことのない衣服を身に着けていることに、今頃ようやく気づいた。
「ひとつだけ、教えていただけますか。エメロード姫は……姉は、神官ザガートのことを、愛していたのですか……?」
 聞いておきながら、フェリオはそれが愚問だと思った。答えはひとつしかない。そしてその答えを俺はとっくに知っている。

「――フェリオ」
 静かでありながら、クレフの声はよく響いた。声が響いたことによって、今この『祈りの間』はにクレフと自分の二人しかいないのだということを、フェリオは改めて感じた。
「エメロード姫の『声』が、お前にも届いていたはずだ」
 フェリオははっと顔を上げた。それと同時に、クレフの小さな手が肩に置かれる。小さくてもその手の温もりは偉大だった。今日まで一度も顔を見せなかったことを、フェリオはほんとうに申し訳なく思った。
「エメロード姫の『意志』で支えられたこの城は、もう長くはもたん」とクレフは言った。「崩壊に耐えうる『セフィーロ城』を、新たに建立せねばならない。私はほかの魔導師や招喚士など、残された強き『心』を持つ者たちと共にそちらへ全力を傾ける。そなたには、民の誘導を頼みたい。民は不安に駆られている。率いてくれる者を求めているのだ」
 フェリオは顔に浮かぶ驚きを隠せなかった。直接的には言わないが、クレフはフェリオに『王子』として民の前に出ることを望んでいる。そして、フェリオがそうすることに何の疑いも持っていない。

 答えを返せずにいると、クレフがすっと目を細めた。
「隣の大広間に民を集めている。そこにはラファーガもいるだろう。ラファーガにはそなたのことを話してある。彼は姫の親衛隊長を任せていた男だ、信頼していい。……準備ができたら、そこへ向かってくれ」
 クレフの手が肩から離れていく。そのままフェリオに背を向け、彼は迷いのない足取りで『祈りの間』の扉の方へ向かう。途中でクレフが杖を傾けると、その動きに合わせて扉がゆっくりと中央から左右に分かれていく。十分に開かれた扉の手前で、クレフは一度立ち止まった。そして、こちらからは横顔を斜めにしか窺うことができないほどの角度で振り向き、言った。
「……姉君は、素晴らしき『柱』であったぞ、フェリオ」
 吹っ切るようにクレフが歩き出す。彼が出ていくと、扉はひとりでに閉じられた。そうしてフェリオは、ひとりになった。


 言われたことをしなくてはと思った。フェリオは徐に椅子から立ち上がり、まず鏡を探した。人前に立つ以上はみすぼらしい恰好をしてはいけないと、かつて教えられたことを思い出したからだ。壁際に大きな姿見を見つけ、そこに向かう。映し出された格好が、『剣士』として森を駆けずり回っていた頃のそれとはまったく違っていても、フェリオは驚かなかった。『王子』としてやっていくのだと、その姿を見て思った。

 見目に問題がないことを確認し、鏡に背を向けようとしたのだが、フェリオは何か違和感を感じて今一度鏡を凝視した。足元から頭までゆっくり見回し、その「違和感」の正体を探る。そして鏡の中の自分自身と目が合ったとき、フェリオははっと肩を震わせた。両耳に均等にピアスがぶら下がっていた。しかしそれは、ほんとうならばあり得ないことだった。左耳のそれは、確かにあの金髪の少女に渡したはずだった。
「……」
 その瞬間、フェリオの中で何かが崩れた。

「準備ができたら、そこへ向かってくれ」
 クレフの声が木霊した。こうなることを彼はわかっていたのかもしれないとフェリオは思った。鏡に映った自分自身が滲んでいく。握られた拳も、結ばれた唇も震えている。
 準備など、何もできていない。人々の前に今すぐ出ることなど、とてもできない。

 フェリオはその場で崩れ落ち、慟哭した。エメロードが消滅したという事実が、遅々として今『心』を襲っていた。最期を看取ることもできず、「さようなら」も言えぬまま、姉は消滅してしまった。弟でありながら、自分は彼女の何を知っていたのだろう。彼女がザガートを愛していたことも、密かに苦しんでいたであろうことも知らなかった。エメロードはいったい何を想いながら、『柱』として今日までこの国を支えていたのだろう。そして――あの『魔法騎士』たちはどんな思いで、課せられた運命と向き合ったのだろう。

 『柱』の弟として、『魔法騎士』の伝説はクレフから聞かされていた。「『柱』に異変が訪れたとき、『異世界』から招喚された『騎士』たちが、この国の危機を救う」。だが、その『伝説』に隠された「真実」を、自分は知らなかった。
 幼すぎたのだ。「真実」を知るには、城を飛び出したときのフェリオは幼すぎた。もっと長く城で『王子』として過ごしていたなら、クレフも「真実」を教えてくれていたのかもしれない。だが、当時のフェリオがそれを知ることはなかった。それはそうだろう。『魔法騎士』がこの国の危機を救うその手段とは、『柱』を消滅させることなのだから――。

 後悔する資格などないことはわかっている。後悔するくらいなら未来に向かって自分にできることをせよと、クレフは言うだろう。だからこそ、彼は『王子』として民の前に出ることをフェリオに望んだのだ。
 クレフはきっと、フェリオがどんな思いで城を離れたか知っていたのだ。知っていて、フェリオが自らの運命から逃げているだけだとわかっていてもなお、彼はずっと、陰ながら見守ってくれていた。そのことを、先ほどのクレフの態度からフェリオは知った。クレフはやはり、俺を見限ってなどいなかった。ただ、こうして自らの意志でこの城へ戻ってくることを、俺自身が十分に成長することを、待っていてくれたのだ。

 この涙が止まったら、「準備ができたら」、王子としてこの国を支えていこう。エメロードが命を懸けて護ったこの国を、今度は弟である自分が、「生きて」護っていこう。強い決意の中、フェリオは声が枯れるほどに泣いた。クレフが触れた手の温もりが、まだ肩に残っているように感じていた。




生まれついた運命 完





小話どころじゃなく長くなってしまいましたw

フェリオって、実は超大人だと思うんです私。第二部では姉の死を平然と受け入れ、そのことを哀しむよりもセフィーロを護るために自分ができることを考えているし、「哀しい『伝説』は姉上で終わらせなければならない」なんて涙なしに言い切ることができているし、泣き崩れる風ちゃんを支えて「笑ってくれ」なんて言えるし。
考えようによっては、フェリオにとって風ちゃんは、姉を殺した仇ですよね。それを涙なしに受け入れられるフェリオは、すっごく大人だと思うんです。
だけど、あれだけ大人な対応ができるのは、きっと風ちゃんたちに再会する前にすごく泣いたからだとも思うんですよね。でも、泣くに泣けない人でもあったんではないかとも思うんです。『王子』という立場もありますし。そんなひた隠したフェリオの涙を引き出せるのは、きっとクレフだけなんじゃないかなぁということで、この小話が出来上がりました。

あわわ、あとがきまでも長くなってしまった! ここまで読んでくださってありがとうございました^^

2013.04.16 up / 2013.17.12 revised




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篁かすみ

Author:篁かすみ
篁かすみ(たかむら・かすみ)と申します。
都内某所にひっそりと生息。
寝ても覚めてもクレ海のことを考えています。

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