蒼穹楼

クレ海至上主義の管理人がおくる、妄想小説連載ブログ。

『あなたに抱かれたい』 5. キスマーク、それは愛の証。

海の日まつり 2013

ぐんと顔の温度が高くなった。見透かされてる。ええ、どうせできませんよ。私はあなたに首ったけなんだから。

本文は「続きを読む」からどうぞ。





 そんなことを言ったのは、つい、彼と離れている間の淋しさに思いがいってしまったからだった。
「ねえ。私が東京で浮気したら、どうする?」
 口にしてから、私は途端に恥ずかしくなった。そんなこと、絶対にあり得ないのに。なんてくだらないことを聞いてるんだろう。
 目を見開いたクレフから、私は咄嗟に顔を逸らした。ばかにされるか、怒られるか。どちらにしても、あまり受けたい返答ではなかった。でも、どちらにしても、きっかけを作ったのは私自身なのだから、甘んじて受けなければならない。はあ、と思わずため息をつき、意を決して再びクレフを見た。ところが、彼が浮かべていたのは呆れた顔でも怒った顔でもなかった。
「気にするまでもない」と彼は言った。笑っていた。「そもそも、出来ないだろう」
 ぐんと顔の温度が高くなった。見透かされてる。ええ、どうせできませんよ。私はあなたに首ったけなんだから。開き直って心の中で言い放つと、私は腰に手を当ててふん、と鼻息を荒くした。
「また来るわ」と言って、セフィーロを後にした。そのときはまだ、クレフの言葉が持つ深い意味に気づかなかった。

***

 東京の実家へ戻ると、部屋に直行して服を脱いだ。
「どうしよう、すっかり忘れてたわ!」
 今日はパパの会社の人たちとビアパーティーだった。ずっと前から言われていたのに、私ったらその話をすっかり頭から消し去っていた。これだから、大学の夏休みって厭になる。長すぎて曜日間隔がなくなるのよ。言ってもしょうがないことをぶつぶつと呟きながら、私は急いで服を着替えた。うちの庭でバーベキューをすることになってるのだから、そんなにかしこまった恰好をする必要はないのだけれど、かといってラフすぎる恰好で行くわけにもいかない。悩んだ末、私はカシュクールタイプのマキシワンピースを着ることにした。大柄で、それなら汚れてもあまり目立たなさそうだった。

 パーティーは五時からだっていうのに、私が帰ってきたときにはすでに時計は四時半を指していた。部屋中を駆け回るようにしながら、私は出て行く準備をした。この時期、五時でもまだ日差しは強い。つばの広い麦わら帽子をかぶって、私は鏡で一度全身をチェックした。
「海ちゃん、準備はできた?」
 下からママの声がした。
「今行くわ!」と私は身を乗り出して大きな声で答えた。ホストが遅れるわけにはいかない。私は小さなショルダーバッグを掴んで部屋を出ようとした。
「え?」
 ところが、扉の前で急ブレーキをかけて立ち止まった。その場で硬直し、何度か瞬きをした。
 何か違和感があった。ちょっと待って。私、今何か変じゃなかった?
 急いで中へ戻り、再び鏡の前に立った。途端、「あっ」と素っ頓狂な声を出して赤面した。
「うそ」
 思わず手で一度胸元を隠した。見間違いかもしれない。軽く深呼吸をしてから、そっと手を取った。ところがそれはまだそこにあった。鏡の中の私が、泣きたいような怒ったような笑ったような、一言では言い表せられない表情をしていた。そんな私をあざ笑うかのような赤い痕が、肌にくっきりと残されていた。V字に開いた胸元には鮮やかすぎるほどの朱色だった。

 その痕は、私に昨晩の行為をまざまざと思い起こさせた。肌にかかる彼の吐息、すみずみまで触れる唇、的確に私の急所を責めてくる指、愛を囁く瞳、切なげに私の名を呼ぶ声、そして中に感じた、彼の体温。
 背筋が震えた。私は思わずその場でうずくまった。
「そもそも、出来ないだろう」
 あれはこういう意味だったのね。私はようやく悟った。確かにクレフの言うとおりだ。これでは浮気なんてできっこない。こんな、「この女は予約済みだ」とでも言わんばかりの痕があっては、誰も手なんか出せないだろう。

 でも、いったいいつこんな痕を。うっすら桃色、というのならばともかく、その痕ははっきりそれとわかるほどの真紅だった。結構強く噛まれたということだろうけれど、まったく気がつかなかった。
「やだ、私」
 思わず呟いていた。強く噛まれたことにも気づかないほど、きっと夢中になっていたのだ。
 呻いて、私はぱったりと倒れ込んだ。もう、なんてことしてくれるの。

「海ちゃん、まだなの?」
 ママの声がして、私ははっと体を起こした。
「ごめんなさい、今行くわ」
 心臓の音は努めて無視しながら、鞄と麦藁帽を取り払い、立ち上がった。一旦ワンピースも脱ぐ。クローゼットからキャミソールを取り出して、肩ひもをギリギリまで詰めてから着た。鏡で確かめると、それならば、痕は見えなかった。
 ほっと息をついて私は再びワンピースを着た。支度を整えて、最後にもう一度鏡と向かい合った。そっとキャミソールに手を当てて位置を下げると、確かにあった。
 おまえは私のものだ。そう言う彼の声が聞こえた気がして、私は目を細めた。
「こんなことしなくても、あなただけよ。これからも、ずっと」
 言って、私は部屋を出た。次に会える日まで、今回は、それほど淋しく感じずに済むかもしれないと思った。彼と過ごした夜のことは幻ではないのだと、胸元の痕が教えてくれるから。




『あなたに抱かれたい』 5. キスマーク、それは愛の証。 完





だんだんネタがなくなってきました……
あと2篇!!




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