蒼穹楼

クレ海至上主義の管理人がおくる、妄想小説連載ブログ。

ゆめものがたり エピローグ

10万ヒット企画

夢は終わらない。現実へと続いていく。

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 高らかなファンファーレが鳴り響く。すると一際大きな歓声が沸いた。それをカーテンの内側で聞きながら、ウミの心臓は、いよいよ信じられないほど速く脈打ち始めていた。
「どうしよう……緊張してきちゃった」
 言って、ウミはクレフの腕に抱きついた。彼が身にまとった礼服の装飾が揺れて、綺麗な音を立てた。
「どうする?」とクレフが言った。「やめるか? 今からでも遅くはないぞ」
 ウミはクレフを見上げた。くすくすと、彼は楽しそうに笑っていた。
「そんなわけないでしょ」とウミは口を尖らせた。それでもクレフは笑うのを止めないので、怒っているのがばかばかしくなって、上がっていた眉尻を下げた。

 クレフだけではなく、両親に加えてフウやフェリオ、そしてイーグルとプレセアも笑っていた。これからは彼らに頭を下げられる立場になるのだと思うと、照れくさかった。でも、クレフならきっと、立場など関係なく皆で手を取り合って国づくりをしようと言うだろう。

 カーテンの向こう側で続いていた拍手が、少しずつ手拍子へと変わる。こちらの登場を促しているのだ。その手拍子は、カーテンを揺らすほど大きかった。ウミはますます強くクレフの腕に抱きついた。いったいどれだけの人が、向こう側には集まっているのだろう。恐怖感も確かにあったが、それ以上に誇らしかった。たくさんの人が新しい「セフィーロ」の門出を祝おうとしてくれているということは、感無量だった。

「ウミ」とクレフが静かに口を開いた。そしてウミの手に自らの手を乗せ、微笑んだ。「準備はいいか?」
 一度深呼吸をして、ウミはそっと、クレフの腕に回していてた手の力を緩めた。すっと背筋を伸ばし、彼と目を合わせて微笑んだ。
「もちろんよ、旦那様」
 クレフは満足げに頷き、周囲に目を向けた。
「それでは」と彼が言うと、皆が頷いた。ウミの隣には両親とフウが、クレフの隣には、イーグルとプレセア、そしてフェリオが並んだ。クレフがカーテンの手前に立っていた衛兵に向かってこくりと頷く。衛兵が、待ってましたとばかりにいよいよカーテンを引いた。外の歓声が一段と高まる。手拍子だけでなく、声もはっきりと聞こえてきた。
「新しいセフィーロの始まりだ!」
「国王陛下、万歳!」
 目の奥が熱くなった。これから新しいセフィーロを皆で築いていく。その先頭に、私はクレフと二人で立つのだ。そのことを、今、実感した。
 ウミはクレフと一度目を合わせた。そしてどちらともなく頷き、盛大な歓声が待つセフィーロ城のバルコニーへと一歩を踏み出した。踏み出した歩幅以上の意味を持つ、大きな一歩だった。

***

 ウミがついに『ロミオとジュリエット』を読了したのは、その前の晩のことだった。クレフの帰りを待つベッドの中で、静かに流れる涙を受け止めた。想像はしていたけれど、ほんとうに哀しい物語だった。
 とてもただの物語とは思えなかった。ウミだって三年前、クレフは死んでしまったのだと悲嘆に暮れ、何度も後を追おうとした。ちょうど、ジュリエットは死んでしまったのだと思い込んだロミオが、服毒自殺を図ったように。
 もしもそんなことをしていたら、今日こうしてクレフの帰りを待っているなどということはなかっただろう。現実、ウミは幸せをかみしめている。ただ、この幸せへとたどり着くまでの道のりのことを思うと、涙が溢れて止まらなかった。人生は、何気ないような些細なことでもその行方を大きく変えるのだ。今ここにこうしていられることが何よりも愛おしい。掌に零れ落ちる涙さえ、幸せの断片のように思えた。

「どうした?」
 深夜を過ぎてようやく寝室へ戻ってきたクレフは、ウミが涙を浮かべているのを見て、慌てて近寄ってきた。ウミは黙ってかぶりを振り、本をサイドテーブルに置くと涙を拭いた。眉間に皺を寄せながら、クレフがベッドに腰を下ろす。ウミはクレフの首にそっと腕を廻し、抱きついた。
「なんでもないの」とウミは言った。「大好きよ、クレフ」
 今、腕の中にいるこのひとは生きている。そしてその彼を抱いている私も生きている。そのことの尊さを、ウミはいつにも増して感じた。
 クレフが困惑していることが、彼に触れているところからはっきりと伝わってくる。しかし彼は、やがてそっとウミの背に腕を廻し、優しく抱き返してくれた。それだけで、涙がすっと引いていった。

「ねえ、クレフ」
 腕を緩め、ウミは言った。
「いつか、私たちのことを物語に書きたいわ」
 クレフは驚いたように目を丸くした。だがすぐに柔らかく微笑んで、「おまえの好きにしたらいい」と言ってくれた。自然と見つめ合う。二人はどちらともなく唇を重ね合った。

「タイトルはね、『夢物語』にしようと思うの」
 クレフがサイドテーブルの明かりを消すのを目で追いながら、ウミは言った。
「ああ」
 微笑んでこそいたけれど、クレフの返事はどこか心ここにあらずだった。明かりが消えると、彼はウミの体を静かにベッドに沈めた。せめて、「いいタイトルだ」くらいは言ってほしかったのに。そんなことを考える余裕があったのは、覆いかぶさってくるクレフの瞳を見つめるまでのことだった。
 もしも聞かれていたら、答えるつもりだった。「あなたと出逢ってからの日々が、まるで夢のようだから」と。

 夢は終わらない。現実へと続いていく。手を取り合い、同じ未来を見ながら生きる、二人の想いを乗せて。物語はまだ、始まったばかり――。




ゆめものがたり 完





というわけで、ヨポさんからのリクエストで、『ロミオとジュリエット』パラレルでした。
「ラメール」はフランス語で「海」の意味ですが、ほかの王家の名前には特に意味はありません。なんとなくフランス語をもじって使っています。
セフィーロの言葉は、フランス語が合いそうだと思っています。世界観としてはイギリスの方が合いそうなんですけどね。

ここまで読んでくださってありがとうございました^^

2013.08.17 up




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2013.08.17    編集

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2013.08.18    編集

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