蒼穹楼

クレ海至上主義の管理人がおくる、妄想小説連載ブログ。

ファザー・イン・ブルー 前篇

海誕企画★2013

※注※
この『ファザー・イン・ブルー』は、短編『おとずれ』の続編ということで書いています。『おとずれ』を読んでいただいてからの方が、より楽しめると思います。

『おとずれ』からしばらく経ち、今ではセフィーロと東京を、クレフは自由に行き来できるようになったという設定です。『おとずれ』では少年の姿だったクレフですが、本作では大人バージョンに置き換えてください。
それから、これは『おとずれ』の続編でつまりアニメエンディングから数年が経過したという設定ですが、イーグルは生きていることになっています。

注意書きが長くなりましたが、本文は「続きを読む」からどうぞ。改題しています。





 海から聞いた話や、実際に目で見たものを頼りに、一応「それらしい」恰好にはなった。しかし、魔法で広間の中央に出した大きな鏡に映る、自分を含めて四人の男たちの姿を見ると、どうしても首を傾げざるを得なくなる。
「なんだか窮屈だな」
 不可思議な表情で口を開いたのは、右隣にいるフェリオだった。
 鏡に映ったフェリオは、いつもの王子然としたローブではなく、胸元がV字に開かれた鼠色のニットに、濃紺に近い青色の下穿きという出で立ちだった。その下穿きは、海たちの世界では「ジーンズ」と呼ばれる、ごく一般的な衣服なのだという。確かに、今のフェリオのような恰好をした人を、『異世界』ではよく見かける。ひとたび『異世界』へ行ってしまえばその恰好も馴染むのかもしれないが、まだセフィーロにいる今の段階としては、フェリオのその出で立ちは、違和感以外の何物でもなかった。

「よくお似合いですよ、フェリオ王子」とにこやかにイーグルが言った。「それに、窮屈という意味では、僕やランティスの恰好の方がよほど窮屈だと思いますし」
 鏡に映ったイーグルと、そしてその隣のランティスを見れば、確かにと思う。二人の恰好は、フェリオ以上に特殊だった。二人とも、胸元で合わせた袖の長い上着に、腰から裾にかけてまるでスカートのように広がる下穿きをはいている。下穿きの色を、イーグルは山鳩色、ランティスは藤色を基調にしたのは私の趣味だが、その恰好自体は、光が二人にそうしてほしいと望んだものだった。たとえ光の望みであるとしても、その恰好はいかがなものかと首を傾げざるを得ない。私自身、彼らのような恰好をした人間は一度も見たことがなかった。異世界にはこれまで何度か足を運んでいるにもかかわらず、だ。

「確かにな」とフェリオはうなずいた。「ランティスたちの恰好は、袖も長くて動きにくそうだ」
「そうですよ」とイーグルは肩を竦めた。「まったく、ヒカルもどうして僕たちにこんな恰好をしてほしいと頼んできたんでしょうか」
「それよりも、イーグル」と私は口をはさんだ。「私としては、おまえまでも今日私たちとともに『異世界』へ行くということの方に、より驚いているのだが」
 鏡越しにではなく、直接イーグルを見て言った。きょとんとしてこちらを向いた彼の瞳がいたずらに輝いたのを、私は見逃さなかった。そういう目をしているとき、イーグルは大抵、腹の底で何がしか企んでいる。
「いやだなあ、導師クレフ」とイーグルは大袈裟な身振り手振りをつけて言った。「ヒカルは、僕とランティスの二人と『ケッコン』したいと言ったんですよ? それなら、僕がランティスと一緒にヒカルのお兄様方に会いに行っても、何もおかしくはないでしょう」
「そういう問題ではない気がするのだが」
「いいんですよ。ランティスだって、一人じゃ心細いでしょうし。ね?」
「俺は一人で構わん」
「ほら、『一人じゃ淋しい』って」
「「「言ってない」」」
 イーグルを除く三人の声が見事にそろった。

「まあまあ、細かいことはいいじゃないですか」
 たじろいだのは一瞬だけで、イーグルはすぐに気を取り直した。
「ところで導師クレフ。あなたこそ、その恰好にその杖はどうかと思いますが」
 イーグルは私が手にした杖を指差した。言われて鏡に視線を戻す。見慣れない恰好をした自分自身の姿に、思わず苦笑いがこぼれる。
「仕方あるまい。この杖がなければ『移動魔法』は使えぬ。『異世界』に着いたらしまうのだから、問題ない」
 鏡に映った私は、薄い水色のシャツの上に黒いベストを羽織り、同じく黒のズボンを穿いていた。ほかの三人の服は魔法で創り出したものだったが(ちなみにフェリオの恰好は、前回異世界を訪れた際に、海が『フェリオならあんな恰好をしそうよね』と指摘した、道行く人の恰好をそのまま模した)、私の服だけは、前回『異世界』を訪れた際に海に渡されたものだった。

 「タキシード」と呼ばれているというその服を差し出された際、一度は頑なに受け取りを拒否した。それこそ、そのような恰好をした人間を『異世界』においても見たことがなかったし、たとえ海の両親に会うのだとしても、着慣れない恰好をしていくということは気の進むものではなかった。
 ところが、なぜそのような恰好をする必要があるのかと問うた際、海に「両親が格式高いレストランを予約してくれたのだから、そのくらいの恰好をしてもおかしくない。むしろそのくらいの恰好をしなければ浮く」とまで言われて、無下に断るわけにもいかなくなってしまった。
 異世界の理はよくわからない私にとっては、海に「こうするのだ」と言われたら、どんなに疑問を持っていても一応従わざるを得ない。それで結局、こうしてその「タキシード」を着ている。どこかちぐはぐに見えるのは、やはりこの、手にした杖のせいだろうか。

「とにかく、行くぞ」
 思考を振り切り、言った。
「ヒカルたちを待たせては、申し訳ないだろう。三人とも、待ち合わせている場所に間違いはないのだろうな」
「はい」とフェリオがまずうなずいた。「俺はフウの家のそばにある公園で待ち合わせて、そのまま彼女の家に行くことになっています」
「俺たちはヒカルの家の前で直接待ち合わせですよ。ね、ランティス」
 イーグルの言葉に、しかしランティスは答えず、ただため息をついた。それは彼なりの肯定の意思表示だった。

「では明日、朝の刻に、『トウキョウたわー』で落ち合おう」
「「「はい」」」
 きれいにそろった返事を聞くやいなや、私は手にした杖をさっと掲げた。ほかの三人が、私を囲むように円を描く。瞼を下ろし、杖を持つ手に意識を集中させる。やがて寄せてくる、体がねじられる感覚に、四人そろって大人しく身を預けた。

***

 街の喧騒が耳を劈く。その、さまざまな音が幾重にも連なる独特の喧騒は、目を開けずとも『異世界』のものであるとわかった。
 「騒がしいこと」を嫌う私にとって、この世界の喧騒は決して心地よいものではない。だが『異世界』は、目に映るものすべてが目新しく、またあらゆる興味深いものが多いことも確かだった。だいたい、ここは海が幼いころより20年間を過ごした世界である。多少の喧騒には目を瞑っても、訪れる価値があるというものだろう。

 ゆっくりと開けた私の目に飛び込んできたのは、鮮やかな朱色のタワーだった。それは「東京タワー」と呼ばれている、無二の高さを誇るタワーである。この都市のシンボル的な存在だというから、セフィーロで言うところのセフィーロ城のようなものだ。今回のように複数人で『異世界』へやってきたときはいつも、その東京タワーを帰郷時の集合場所としていた。
 タワーの位置を確認したところで、改めて辺りを見回す。私が降り立ったところは、どうやら東京タワーからほど近い公園のようだった。それほど混雑してはおらず、家族連れが何組か戯れている程度である。無邪気に駆け回る子供たちの姿に、自然と目が細くなる。

『導師クレフ』
 ふと脳裏に声が響いてきて、顔を上げた。燃える炎のような色をした空が、少しずつ夜を連れてこようとしている。声の主の顔を脳裏に思い浮かべ、うなずいた。
「ランティス。無事か」
『ああ。今、ヒカルの家の前にいる』
「そうか。ヒカルに宜しく伝えてくれ」
『わかった』
 ランティスとの会話はいつもそうだが、今回もそれだけであっさりと終了した。

 そうした念話をはじめとして、異世界でも魔法を使うことができるとわかったのは、今回のように他の者とともに異世界へやってくるようになってからだ。最初は、魔法の精度が高まっていなかったこともあり、自分一人だけで二つの世界を行き来することを続けていた。やがて、ほかの魔法と同程度にまでこの『移動魔法』を習得すると、かねてより異世界へ行きたいと言っていたフェリオやランティスを伴うようになった。

 それぞれに想いを通わせていた――私の場合は、異世界とセフィーロとを行き来できるようになってから通わせたのだが――少女たちとの再会を果たしてから、かれこれ二年が経とうとしている。そして今回、奇しくも三人の少女たちは、今日という同じ日に、それぞれの想い人を自分たちの家族に紹介したいと言ってきた。光はランティス(とイーグル)を兄たちに、風はフェリオを姉に、そして海は、私を両親に。
 四人同時に世界を移動するというのはこれが初めてのことだったので、うまくそれぞれが望む地に向かうことができるか多少の不安があったのだが、どうやら杞憂だったようだ。

『導師私、俺です。無事フウに会えました』
 物思いに耽っていたところ、今度はランティスのそれに比べたらだいぶ高い声が聞こえてきた。
「フェリオか。それはよかった」
『本当にありがとうございます。また明日の朝、宜しくお願いします』
「ああ」
 フェリオの声が聞こえなくなると、私は一人含み笑った。聞こえてきたフェリオの声は、いつになく緊張を孕んでいた。彼は今日、風の姉と会うことになっているはずだった。姉とはどんな人なのかと問うたフェリオに、風が「とても厳しい人だ」と説明してしまったので、そのときからフェリオはずっと緊張を解いていないのだ。そして今聞こえてきた声で、彼の緊張がピークに達していることを知った。
 緊張で強張るフェリオと、それを一歩後ろから見守る風。そんな映像がぱっと脳裏に浮かぶ。誰も見ていないのをいいことに、喉の奥でくつくつと笑った。

「さて」
 海と待ち合わせをしているのは、ここから少し歩いた「東京タワー」の正門前だった。何度も歩いたことのある場所だからよくわかる。今すぐそこへ向かってもいいのだが、日の位置を見るにつけ、まだ約束の時間までは少し余裕がある。どうしようか、と辺りを見回したとき、突然前方から強い風が吹いてきた。咄嗟に足を踏ん張る。異世界の風は、セフィーロのそれと違って読みにくい。このように不意打ちされることが、少なくなかった。

「しまった!」
 不意に切羽詰まった声がして、そちらを見やった。すると、風にあおられて無数の紙が宙を舞い、その紙を追いかけようとしている一人の男がいた。どうやら、今しがたの声の主は彼らしい。きっちりと撫でつけられていたはずの群青色の髪が、なりふり構わず乱れている。男は、飛んでいく前に紙をつかもうと試みているが、すでにずいぶん高くまで飛んでいってしまっているものもあった。公園に生える木に引っ掛かり、落ちてこなくなっているものもある。すべてを集めるのは、どう見ても至難の業だった。

 すっと手を掲げたのは、条件反射のようなものだった。それこそ「しまった」と思わないこともなかったが、それよりも、男を助けたい意志の方が強かった。
 『魔法』の存在しない異世界においては、極力魔法を使わないようにしている。ランティスたちにも、決してこちらの世界の人間がいる前では魔法は使ってはならないと教えてきた。今の自分自身の行動は、その教えを自ら破っているようなものだが、私の中に、今目の前で起きていることを黙って見過ごすという選択肢はなかった。

 掲げた手に吸い寄せられるように、舞い上がった紙が私のもとへ集まってくる。すべてが集まると、結構な厚さになった。表紙には、こちらの世界の文字で大きく表題が書かれてある。当然読めるわけもなく、ちらりと一瞥しただけで、その紙の束を手に、ぽかんと口を開けている男のもとへ歩み寄った。
「すべてそろっているか、念のため、確認した方がいいかもしれん」
「え?」と男は目をしぱたいた。「あ、ああ……ありがとう」
 明らかに表情に戸惑いを浮かべながらも、男は紙の束を受け取った。
「呆けていたものだから」
 そう言って、男はほろ苦く笑った。どうやら私が魔法を使ったことには気づいていないようだった。なんだか拍子抜けするような気もしたが、それはそれでいいと、何も言わずにほほ笑み返した。
 ちらりと男の背後を見やる。やや離れたところに規則正しくベンチが並んでいて、そのうちの一つに、大きな鞄と飲み物が投げ出されていた。男はおそらく、つい今しがたまでそこに座っていたのだろう。「呆けていた」と言うが、夕陽を見て、感傷的な気分にでも浸っていたのだろうか。

 再び男に目を向ける。彼は私よりもわずかに背が高かった。風貌は若々しいが、目尻の細かい皺が、彼の生きてきた年月の長さを告げていた。
「今日は風が荒れているから、気をつけた方がいい」
 それだけを言い置き、男に背を向け歩き出した。先ほどの突風の名残か、まだ私の髪を掻き上げる程度の風が吹いている。雨の匂いは感じないので、天候が荒れる心配はなさそうだが、風が騒いでいることは確かだった。
 明日の朝、『移動魔法』を使用するまでに止んでくれればいいが。そんなことを考えながら、軽く天を仰ぐ。魔法が天候に左右されることは考えにくいが、ただでさえ、異なる世界間を移動するというのは荒技なのだ。障害はいくらでも少ない方がいい。

「君!」
 この風の中海を待たせるのは申し訳ないと、歩みを早めようとした矢先、突然背後から呼び止められた。立ち止まって振り返ると、先ほどの男が、こちらへ向かって歩いてくるところであった。
「ちょっと時間、あるかな? 10分でいいんだ、私の話し相手になってくれないか」
「なに?」
 驚いて目を瞠った。じっと見つめた男の瞳は、迷いの色を宿していた。




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ほそぼそと、また連載再開してます。月一くらい目指せればと。

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Author:篁かすみ
篁かすみ(たかむら・かすみ)と申します。
都内某所にひっそりと生息。
寝ても覚めてもクレ海のことを考えています。

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