蒼穹楼

クレ海至上主義の管理人がおくる、妄想小説連載ブログ。

エンドレス・ユーフォリア

海誕企画★2013

この『エンドレス・ユーフォリア』は、先にアップした『ユーフォリア』の続編です。大人向けです。クレフさんは大人バージョンに置き換えてください。

本文は「続きを読む」からどうぞ。





 漫画や映画の世界では、よく、「鳥の囀りと日の光で自然と目が覚める」なんていうシーンが描かれていることがある。けれど東京では、とてもそんなことは起こり得ない。騒音を防ぐために窓は大抵二重サッシになっていて、鳥の囀りなんか聞こえてこないし――だいたい、部屋の中まで聞こえてくるような鳥の声はもはや「囀り」というレベルのものではない――、カーテンをしっかりと閉めてしまえば、日の光も入ってこない。だから、「鳥の囀りと日の光で自然と目が覚める」というのは、ファンタジーの世界の中だけの話だと決め込んでいた。この『セフィーロ』を知って、実際にそういう目覚めを体験するまでは。

 もっとも、セフィーロはそれ自体がファンタジーの世界よろしく、「現実」とは違うのではないかと思うことが多々ある。実際、この「もうひとつの世界」と東京とを行き来できるのは地球60億人の中でも私たち三人だけで、ほかの人にとって、このセフィーロの世界は「現実」には存在しない。だけど私たちにとっては、このセフィーロでの出来事、触れ合う人々、過ごす時間、そのすべては「現実」だ。だからこそ、「鳥の囀りと日の光で自然と目が覚める」という体験も、「現実」と呼んでいいと思う。

 そして今、私は自分がまたその体験をしようとしているのだと気づく。だんだんと夢から浮上していく意識の中、私の耳は鳥の囀りを聞き、私の体は日の光の温もりを感じる。包まったシーツの柔らかさが頬を掠めてくすぐったい。文字どおり「自然と」、目を覚ました。
 純白のシーツが視界を覆う。パラッと本をめくる音がして視線を上げた。するとすぐそばで、ヘッドボードに上半身を預けて腿に乗せた本を読んでいるひとの姿があった。
 ゆっくりと、視線を上へと持っていく。そのひとはペールグレーのガウンを羽織り、穏やかな表情で文字を追っていた。シャワーでも浴びたのだろうか、薄紫色の髪は生乾きで、湿った分、普段よりも重たそうだ。後光が差す彼の表情に、思わず目を奪われた。
「み……」
 われ知らず声を漏らすと、彼が気づいてこちらを見た。思いがけずその澄んだ蒼い瞳と目が合って、どきりとする。
「ん?」
 何か言ったか。そう問いかけるように、彼が小首を傾げてほほ笑んだ。私は慌ててかぶりを振り、
「うっ、ううん。何でもないわ」
 と言った。本当は、「水も滴るいい男」と言おうとしていた。

 そのいい男が、腿に乗せていた本を畳み、ベッドサイドのテーブルに置いた。そして私の額にそっと手を当てると、身を屈めて顔を覗き込んできた。
「だいじょうぶか、ウミ」
「え?」
 そんなことを聞かれる謂れに思い当たらず、きょとんと目を丸くした。けれどそうした途端、劈くような頭痛を覚えて、呻きながら顔を顰めた。自然と彼の手が離れていったので、今度は自分の手で頭を抱え、仰向けになって息を整えようと試みた。なんだかひどく頭が朦朧としていることに、いまさら気づいた。
「クレフ、私……」
 助けを求めるように呟くと、頭上でクレフがくすりとほほ笑んだのが聞こえた。頭を抱えたまま、上目遣いに彼を見上げる。目が合うと、クレフは包み込むように優しく私の頬に触れた。
「やはり、覚えていないか」
「え?」
「昨夜のことを」
「昨夜のこと……」
 鸚鵡返しにすると、クレフはこくりとうなずいた。そんなクレフから視線を外し、自分自身の記憶をたどった。昨夜、何があったっけ。ああ、そうだ。たしか、ひと月ぶりに来ることができたからって、みんなが宴会をしようって言ってくれたんだ。途中まではクレフも一緒だったけれど、「片付けなければならない仕事がある」とかなんとか言って、中座してしまった。それが淋しくて、クレフがいなくなってから、自棄になって果実酒を飲みまくって――

「あ」
 ぱちくりと瞬きをした。刺すような頭痛の原因にようやく思い当たった。これは俗に言う、「二日酔い」だ。
「おまえはだいぶ飲んでいたと、昨夜、部屋まで付き添ってきてくれたカルディナが言っていたぞ」
 はっと顔を上げると、クレフが含み笑いをしている。顔の温度が一気に上昇するのを感じた。
 正直、途中からの記憶がまったくなかった。カルディナに連れられてクレフの部屋に来たことも覚えていない。当然のように目を覚ましたけれど、改めて見回せば、確かにここはクレフのベッドだ。どうやってここに寝たのかということも覚えていない。
 羞恥心が顔を覗かせた。当然二日酔いなんて初めての経験だけれど、これほどまでに記憶を失うものなのか。私、粗相をしていないかしら。何か、クレフに対してとんでもないことを言っていなきゃいいけど――

 そこまで考えて、不意に奇妙な違和感を覚えた。何気なく寄せた足が、当然のようにシーツを擦った気がしたのだ。
 瞬間、鳥肌が一気に全身を駆け抜けた。頭を抱えていた手を慌てて離し、包まっていたシーツの上から、自分自身の体を確かめるように触る。どこを触っても、シーツ以外のものに触れている感触はない。胸元のシーツをそっと持ち上げ、恐る恐るその中を覗き込んだ。
「……っ!」
 声にならない悲鳴が出た。すかさずシーツで体を覆った。

 どうして……どうして私、裸なの?! そう叫びたいのを必死で抑えて、クレフを見上げた。今や、鼓動はマラソン選手並みに速くなっている。そんな私の動揺を知ってか知らずか、クレフがそれは楽しそうに、くつくつと喉の奥で笑った。
「昨夜のおまえは、なかなかかわいかったぞ」
「な……!」
 思わず飛び起きた。一瞬、また刺すような頭痛を感じて眉間に皺を寄せる。けれどそれどころではなくて、シーツで胸元を隠したまま、余裕綽々の表情を浮かべているクレフに迫り寄った。
「何? 昨夜、いったい何があったの? 私、酔っ払って何か変なこと――」
「いやいや」とクレフはかぶりを振った。「何も変なことは言っていない。ただ、少し積極的だっただけだ」
「せ――えっ、ちょっと、クレフ?」
 突然クレフが私をぐっと引き寄せた。そして狼狽した私をベッドに沈めると、クレフは私の両手を彼の首の後ろに回した。条件反射的にそこで手を組むと、私を見下ろすクレフと目が合った。濡れた髪のクレフはなんだか一段とかっこよく見えて、意識せずともどきっとしてしまう。しかも、ガウンの間からちらりと覗く肌がやけに扇情的だ。

 無意識のうちにごくりと唾を呑んだ私に向かってにっこりと笑ったクレフは、しかしとんでもないことを口にした。
「泥酔したおまえを寝かせた私をこの体勢で引き留めて、おまえはまず、口づけをねだった」
 口づけ。まあその単語はよしとしよう。でも、なんですって? 誰が、「私が」? どうした、「ねだった」?
「はっ、はあ?!」
 慌ててクレフの首の後ろに回した手を解こうとした。ところがその手をクレフがつかんで首を振ったので、解こうにも解けなくなってしまった。
 このひとは、私に記憶がないのをいいことに、からかおうとしているんだわ。そう思おうとしたけれど、100%そうとは言い切れない自分がいるから、言い返せなくなった。確かに昨夜、皆が開いてくれた晩餐会では、クレフがいなくなってしまったことがどうにも淋しくて、煽るように果実酒を飲んだ。アルコールのせいでとんでもないことを口走っていたとしても、おかしくない。

 そうは言っても、だ。
「しかも、いざ口づけたとしても不服そうな顔をして言ったのだぞ、『足りない』と」
「な……うっ、嘘でしょ?」
「嘘ではない。それにとどまらず、挙句の果て、おまえは私に――」
「も、ももももうやめて! それ以上言わないで!」
 そこから先を聞いたら、顔から火が出て爆発してしまう。本気でそう思った。ようやくクレフが腕を解放してくれたので、自由になった手で顔を覆った。思ったとおり、火傷しそうなほどに頬が熱かった。
 「挙句の果て」の続きは、聞かずともわかっている。それは、裸でこのベッドで寝ていたという事実に直面したときからうすうす感づいていた。つまり、「そういうこと」なのだ。私はきっと、事実とんでもないことを口走ってしまっていたに違いない。

 くすくすと笑う声が上から降ってくる。手を少しだけ下げ、上目遣いにクレフを睨んだ。
「楽しんでるでしょ、クレフ」
「否定しないな」
 あっさり言われた。
「さて」とクレフは私の髪を一房すくい、口づけた。「おまえの『願い』をかなえてやったところで、私に褒美をくれる気はないか。ウミ」
「ほうび?」
 顔を覆った手をそっと離し、ぱちくりと目を丸くした。そんなことを言われるとは思ってもみなかった。クレフはあくまでも笑顔を崩さず、「ああ」とうなずいた。

「私の『願い』をかなえた」とは言うけれど、そもそも私、自分が「そんなこと」を願ったっていう記憶がないんだけど。そう思ったけれど、クレフの瞳に少年のような輝きが宿っていることが、私の背筋をなぜかぞくりとさせた。「いや」とは言わせない瞳だった。
「わ、私ができることなら、いいけど」
 勢い任せに言ってしまったのが間違いだった。私の答えを聞いた瞬間のクレフの笑顔を表現する言葉に、「腹黒い」以外の何かがあったとしたら教えてほしい。「しまった」と思ったときにはもう遅かった。シーツを下ろし、私の胸元に顔を埋めてきたクレフの濡れた髪が首をくすぐる。その、普段とは異なる感触に、思わず声を上げた。
「ちょっ、ちょっと、クレフ!」
 抵抗しようとした私の両手を丁寧に押さえつけて、クレフは顔を上げた。先ほどよりわずかに肌蹴たガウンの胸元が、男性にしては反則の色っぽさをがんがん放ってくる。自分の体が熱を帯び始めるのを、厭でも感じた。もう勘弁してほしい。確かにこれまで何度となくこうして体を重ねているけれど、いつもいつも、私はクレフに翻弄されてしまう。その艶めかしさは、わざとやっているならとんでもない策士だし、そうでないならとんでもない色魔だ。

 そのクレフが、ちゅっと音を立てて私に口づけた。
「酔って素直にねだるおまえの声は、じゅうぶん聞かせてもらった。今度は、素面のおまえが恥じらう声が聞きたい」
「な……!」
 何を言っているの。朝からこんなこと、できるわけないじゃない。だいたい、もうすっかり日が昇っているじゃないの。どんなに頭の中で抵抗しても、実際にそれらの言葉が口から出ることはなかった。クレフの舌が首筋を這うだけで、気が狂いそうになる。そして――散々攻められて、結局は、彼が望むとおりの声を上げてしまう。

 その朝、私は生まれて初めて「強制的な二度寝」というものを体験した。言葉にするのも憚られるような強い快楽に身を沈めながら。
 齎される幸福に、終わりはない。




エンドレス・ユーフォリア 完





『ユーフォリア』の続編。海ちゃん視点です。
唯野クレ海好きさんからのリクエストの中に、「鬼畜クレフ攻め」というこれまた見逃せない単語がありまして。夜は散々惑わされたクレフさんの、朝の逆襲編でした。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました^^

2013.03.30 up / 2013.09.07 revised




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篁かすみ(たかむら・かすみ)と申します。
都内某所にひっそりと生息。
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