蒼穹楼

クレ海至上主義の管理人がおくる、妄想小説連載ブログ。

ラスト・リング 20. 心の在り処

10万ヒット企画

どうするの、海。私は心の中で自問した。思い立ったが吉日よ。告白すると決めたなら、すぐがいいんじゃないの。

本文は「続きを読む」からどうぞ。





 世間は八月に入っていた。そろそろ暑さに体が参ってくる人間に代わって、蝉がその存在感をここぞとばかりに示す時期だ。部長と二人、そろって社長室に呼ばれたのは、そんな暑さ真っ只中のある日のことだった。
「失礼いたします」
 最初に社長室に入ったのは、私たち二人を先導してきたプレセアだった。彼女に続いて部長が、最後に私が扉をくぐる。初めて足を踏み入れた社長室は、想像とはだいぶ違っていた。何十万もするようなレザーチェアもなければ、ナルシストっぽくて痛い肖像画も、ゴルフの練習キットもない。あるのは応接用のソファセットと、誰でも持っているような小さな机、それに本がびっしりと詰まった本棚くらいのものだった。
「おお、来たか」
 その本棚の前に立って一冊の本とにらめっこをしていた社長が、快活な笑顔で私たちを出迎えた。すぐに終わる話だと言う社長に促され、私たちは応接用のソファーに腰を下ろした。私と部長が並んで長いソファに、部長の向かい側に社長が、そしてお誕生日席にプレセアが座った。

「今日は改めて、『ル・プレリュー』二号店のプロジェクトを見事成功へと導いたおまえたちを、激励しようと思ってな」
 私と部長とを交互に見ながら、社長はそう切り出した。
「本当によくやってくれた。頼もしい社員を持って、俺も鼻が高いよ」
「とんでもありません」と部長がかぶりを振った。「オープンが二か月も前倒しになるとはさすがに想定外でしたので、至らない部分も多かったかと」
「いやいや」と社長は笑った。「おまえたちはよくやった。先方の社長からもつい今しがた、電話で謝意を伝えられたところだ」
 今度、自分たちがプロデュースした店に行ってみなさい。社長はそう言った。
「そうですね」と部長はほほ笑んだ。「店が落ち着いたころに足を運んでみようと思います」
「相変わらず謙虚だな、おまえは」
 社長は歯を見せて笑った。それから「そうそう」と口調を変え、思い出したように手を叩いた。
「香港へ行かせたイーグルだがな。実は先日、支店長がクレームをよこしてきたんだ」
「え?」
 部長と私の声がそろった。私たちは一度互いの顔を見合わせ、それから改めて社長へ視線を戻した。すると社長はにやりと笑い、言った。
「仕事が出来すぎて困るそうだ。支店長の座が危うくなりそうだから早く日本に戻してくれと、泣きつかれたよ」
 私はまた部長と顔を見合わせた。ただし今度は、お互いに、直前とはまったく違う表情をしていた。
「本当ですか、社長」と私は思わず身を乗り出して言った。
 ああ、と社長はうなずいた。
「狙っていたとおりの活躍だ。香港が大きな収益源になる日も近いかもしれないぞ。この短期間でここまでやってのけるとは、さすがとしか言いようがない」
 そして社長は、部長を見て目を細めた。
「おまえは本当に、部下を成長させるのがうまいな」
「もったいないお言葉です」と部長は頭を下げた。
 イーグルならばきっとうまくやっているのだろうとは思っていたけれど、こうして人の口からその活躍を聞くのは本当に嬉しいことだった。社長の耳に届くほどだから、よほど目立っているのだろう。私にとってイーグルは、たとえ働いている国が違っても、永遠のチューターだった。そのイーグルが評価されるということは、自分自身が評価されているかのように、ましてそれ以上に誇らしかった。

「それから」と社長は、私の心の中の興奮が収まらないうちに再び口を開いた。「プレセアのことだが、今回正式に日本支社に迎えることになったよ」
「え?」
 思わずプレセアを見る。私と目が合うと、プレセアはにこやかにうなずいた。
「正式にプロ戦のメンバーになることになったわ。しばらくはクレフの下で、副部長ということでやっていく予定よ。これからもよろしく」
 こんなに頼もしいサプライズはないと思った。正直言って、イーグルの抜けた穴は、プロ戦にとってかなりの痛手だった。今ではかつての班編成はなくし、部署全体がひとつのチームとなって動いているが、人手は明らかに足りていない。そこにプレセアが入ってくれるのなら、心強いことこの上ない。ずっと部長の秘書のようなことをしてきた彼女は、プロ戦の仕事の流れはだいたいわかっているし、何よりとにかく仕事が速くて正確だった。
「よかったですね、部長」と私は言った。
 ああ、と部長はうなずいた。
「これで私も、ようやく息抜きができそうだ」
 私はびっくりして部長を見た。「うそばっかり」と言ったのはプレセアだった。
「息抜きなんてするつもり、ないでしょう。仕事が何よりも好きなあなたが」
 部長はぎょっとしたように瞠目し、何度か瞬いた。けれどすぐに破顔して、
「ばれたか」
 と言った。
 部長につられて、皆が笑った。その中にいて、私は内心なぜかほっとしていた。もしも部長が本当に息抜きなんかしたら、どこか遠くへ行ってしまうような気がした。

「話は以上だ」
 頃合いを見計らって発せられた社長の言葉に、私と部長は同時に席を立とうとした。
「クレフは残ってくれ」
 ところが、社長がさりげない調子でそう続けたので、私は中腰のまま部長を見た。部長自身も意外だったようで、きょとんとしていた。けれどすぐに表情を引き締めると、私に向かって目配せをした。「先に行け」という合図だった。ちらりとプレセアを見たが、彼女はそもそも席を立とうとするそぶりすら見せていなかった。
 偉い人には偉い人同士の話があるのだろう。「みんなで食べてくれ」と最後に社長から渡されたお菓子の詰め合わせを手に、私はひとり、社長室を後にした。

***

「わあ、『プラチナチェリー』やんか」
 部署へ戻ると、カルディナが真っ先に喰いついてきた。
「うち大好物やねん、これ」
 カルディナは私からお菓子の箱を取り上げると、断りもなしに蓋を開け、早速一個頬張った。部長が戻ってから開けた方がよかったんじゃないかと思ったが、頬を押さえて「んー」と幸せそうな笑みを浮かべるカルディナを見ていると、窘める気も失せてしまい、苦笑するにとどめておいた。
 皆が群がってくる前に、一個だけ自分の分を確保し、私は自席へ戻った。パソコンを開けると、新着メールのお知らせがポップアップした。噂をすればなんとやらで、差出人は、香港支社を襲う台風の目となっている人物だった。
「いいタイミングね」
 くすりと呟き、私はメールを開いた。

 仕事のことは、「なんとかやっています」とだけしか言及されていなかった。書かれているのは専ら香港での生活のことばかりだ。毎日新たな発見があって、生活自体は楽しいが、夏の暑さだけはどうにも我慢ならない。要約すればそうまとめられるだろうか。メールの文面からは、社長が言ったようなことが起きているとはまったく想像できなかった。けれどそれは、驚くようなことではなかった。イーグルは、自慢を吹聴して歩くような人間ではない。
『香港へお立ち寄りの際には、ぜひ連絡してください。』
 そこでメールは終わっていた。思わず苦笑いがこぼれたのは、まだ彼との約束が果たされていないことを暗に指摘されたように感じたからだ。「夏休みに遊びに行く」と約束したときのことが懐かしかった。あのときは、「夏休みは労働者の権利だ」などと豪語したが、実際はまだ、一日の休暇も取得できていない。まあ、仮にこのまま夏休みが流れてしまったとしても、仕事が楽しいから問題はない。けれど約束は約束だ。
 プレセアが正式に部員になってくれるなら、ある程度休みの融通も利くだろう。今度部長に相談してみよう。そう思いながらイーグルからのメールを閉じようとしたが、何気なくスクロールしていくと、署名のすぐ上にまだ文章があることに気づいた。
『告白することはできましたか?』
 どきりとした。誰に、ということは書かれていなかったけれど、それを訊くのは野暮というものだった。

 告白なんて。私は頬杖をつきながらため息をこぼした。玉砕するとわかっているのに告白なんて、とてもできない。そんな勇気は、私にはなかった。
「やる前から諦めるなんて、あなたらしくありませんよ」
 不意にイーグルの声が聞こえた気がした。そんなことはあり得ないのだけれど、確かにイーグルならばそう言うだろうなと思えるような言葉だった。
 背中を押してくれてるんだわ。ふっとほほ笑み、社長からもらったお菓子の封を開けた。ホワイトチョコレートに包まれたドライチェリーだった。甘酸っぱさが、心に沁みる。確かに、やる前から諦めるなんて、不戦敗を認めているようなものだ。そんなのは私らしくない。確かに玉砕するかもしれないが、砕けられるのは当たった人だけだ。

 やっぱり、伝えるだけは伝えよう。そう心に決めて今度こそメールを閉じた、ちょうどそのとき、扉が開く音がした。顔を上げると、部長が戻ってきたところだった。プレセアは一緒ではないようだった。
「あ、部長」
 カルディナが、おそらく四、五個目のお菓子を頬張りながら声を掛けた。
「いただいてます」
 ああ、と部長は応じた。視線をパソコンに戻そうとしていた私は、けれど途中でまたその視線を部長へと戻した。気のせいか、部長の返事がなんだかそっけないように聞こえた。
 けれど部員に囲まれて笑顔を浮かべる部長は、いつもの部長だった。気のせいかな、と思い直す。それでなくても、部長の言うとおりル・プレリュー二号店のオープンが前倒しになったせいで、このところプロ戦は多忙を極めていた。特に部長は、あらゆる方面に朝から晩まで引っ張りだこになっていたから、疲れが溜まっていてもおかしくない。社長のねぎらいを受けたことで、肩の重荷が下りたのかもしれない。
 部長が輪を抜けてこちらへ向かって歩いてきたので、私は急いで視線を下げ、パソコンを見ているふりをした。部長は一本隣の通路を通って自分の席についた。そしてパソコンを開き、規則正しくキーボードを打ち始めた。

 どうするの、海。私は心の中で自問した。思い立ったが吉日よ。告白すると決めたなら、すぐがいいんじゃないの。今ならみんなお菓子に夢中になってるし、さりげなく誘うこともできるわよ。
 そうね、と私は密かにうなずき、席を立った。部長のところへ真っすぐ向かう。そして彼の机の前で立ち止まった。
「部長」
 ん、と部長は顔を上げずに続きを促した。
「あの」と私は無意識のうちに拳を握りながら言った。「今夜、お時間ありませんか」
 そこで部長は手を止めた。こちらを見上げる大きく見開かれた目が面映ゆくて、私は思わず視線を外した。
「ちょっと、相談したいことがあって」
 どもるような言い方になってしまったのは、演技でもなんでもなかった。けれどそれが案外、それっぽく聞かせることに一役買ったかもしれない。しかも、今のように思い詰めた顔をして言われたら、上司としては断れないのではないだろうか。

「わかった」
 案の定、部長はあっさり了承してくれた。ぱっと顔を上げると、部長はすでにパソコンの画面に視線を戻していた。
「少し遅くなる。店は――『ラスト・リング』でいいか」
 そこを提案したのはおそらく、私でもわかる店だからだろう。私は二つ返事をしそうな勢いでうなずいた。顔がにやけないようにするのが大変だった。
「8時までには行けるようにする」
 そう言って、部長は会話を終わらせた。私は自分の席に戻り、腕時計に目を落とした。8時まではあと4時間弱の猶予があった。

***

 その日も「ラスト・リング」はほぼ満席だった。バーテンはとても忙しそうにしていたが、入店した私に気づくと如才ない笑顔を向けてくれた。部長が前もって話しておいてくれたのだろうか、バーテンは、前回私たちが座った奥の席の方を目で示した。目礼をして、その席へ向かう。ふと見上げた壁時計は7時半を指していた。当然部長はまだ来ていない。斜めに向かい合ったソファのうち手前の方に腰を下ろし、私は軽く息をついた。
「飲まれてお待ちになりますか?」
 声を掛けられて顔を上げると、バーテンが立っていた。差し出されたおしぼりを受け取り、私はかぶりを振った。
「お水をいただけますか」
 かしこまりました、と去ったバーテンは、間もなく私が頼んだ水を手に戻ってきた。けれど彼が手にしていたのは水だけではなかった。テーブルの上にチョコレートが置かれたのを見て、私は驚いて顔を上げた。
「少し、お顔が緊張なさっているように見えましたので」とバーテンは言った。
 軽くお辞儀をして去っていくその背中にお辞儀をし返すので精いっぱいだった。その鋭い観察眼は、天性のものなのだろうか。
 バーテンが置いていってくれたのは、甘みの強いスイートチョコレートだった。強張った心をほぐしてくれるような甘さに、ほっとした。

 さて、と私は壁に目を向けた。部長とこの店で待ち合わせることを約束してからもう三時間以上、どうやって切り出そうかということばかり考え続けていた。いきなり本題に入るのは、さすがにまずいだろう。たぶん部長は、「相談とは何だ」と訊いてくるだろうから、それに対する適当な答えを用意しておかなければならない。その点についてはいろいろと考えた。今後のキャリアについて、部署内での立ち位置について、今取り組んでいるプロジェクトについて。もっとも自然なのは、「今後のキャリアについて」だろう。上司と部下という関係を鑑みても、そこから話を膨らませていくのが無難な気がする。心が定まりつつあったそのとき、鈴の音が耳を掠めた。
「いらっしゃいませ」
 時計を見ると、時刻は8時ちょうどだった。顔も見えないのに、そのときやってきたのは部長であると私は確信した。途端に脈が速くなる。背筋を伸ばし、急いで髪を撫でつける。変なところ、ないわよね。グラスに映った自分自身と目を合わせ、心の中でうなずく。近づいてきた足音は、私のすぐそばで止まった。昼間とは違うルージュの色に、彼は気づいてくれるだろうか。

「すまない、待たせたか」
 言いながら、部長は斜向かいに腰を下ろした。今来たところです、と私が答えると、そうか、と部長はうなずいた。バーテンがおしぼりを差し出す。受け取った部長の前に、バーテンは続けて封がされたままのワインを置いた。二つのグラスをコースターの上に並べ、最後にコルク抜きを添えると、バーテンは去っていった。
 部長はすぐにはワインを開けようとはしなかった。
「それで」
 しばらくワインのエチケットを見ていた部長は、不意に私を見返して言った。
「相談とは?」
 その瞬間、思考という思考が吹っ飛んでしまった。なんだったっけ、と私は私に問うた。あれほど考えていたのに、何も思い出せない。当然だった。相談なんてはじめからなかったのだから。私が今日部長を誘ったのは、何かを相談するためではなく、何かを打ち明けるためだ。
「あの」
 意を決して口を開いた。心臓が、文字どおり破裂しそうだった。
「部長のことが好きです」
 言った瞬間は、想像していたよりもあっけないものだった。

 部長は一度瞬き、それから瞠目した。相変わらず真っ青で、美しい瞳だった。そこに映り込んだキャンドルが揺れる。眩しくて、私は視線を逸らした。
「部長が、奥様になるはずだった方を今も想っていらっしゃることはわかってます。でも、好きなんです」
 そう口にしてから、ふと思った。私はどうしてほしいんだろう。
 最初はただ、この想いを打ち明けたい、知ってほしいという気持ちしかなかった。けれど想いを打ち明けたら、「ああそうですか」で終わるわけがない。植物を相手に話しているわけではないのだから、何らかの返答が、部長からはあるはずだ。
 浮ついていた足が急に地面についたような感じがした。これは告白なのだから、対する返事として考えられるのは「Yes」か「No」かしかない。もしも「Yes」だったとしたら、私はどうしたいだろう。部長と付き合いたいだろうか。
 もちろんだ、部長のことが好きなのだから彼の恋人になりたいのは当然だ。そう思う一方で、けれどそこまでは求めていないような気もした。たぶん――そう、私は、部長のそばにいられたらそれでいいのだ。好きでいることを赦してもらえたらじゅうぶんだ。願わくば、もしも部長が何か思い悩むことがあったときに私を頼ってくれたなら、それ以上に求めることなど何もない。

「部長、私――」
「龍咲」
 顔を上げた私を、けれど部長がぴしゃりと遮った。部長は目の前にあるワインのエチケットを、まるでそこから目を離すと罰ゲームをやらされるかのように頑なに見つめていた。私は部長の言葉を待った。待つしかなかった。部長の横顔は、どんな言葉も拒んでいた。
「私には、おまえにそんな風に想ってもらうような資格はない」
 やがて部長は、静かに口を開き、私を見た。
「おまえは容姿端麗で、仕事もできる。人当たりもいい。引く手あまただろう。私などを想ってくれる暇があるのなら、その時間をもっと有効に使え」
 そして部長は、念を押すようにうなずいた。その顔に浮かんだほほ笑みを、このときばかりは美しいとは思えなかった。
「私が良く見えるのは、年が離れているからだ。騙されるな、気の迷いだ」

 自分の愚かさをこのときほど罵りたくなったことはなかった。どうしてだろう。どうして私は、部長が「No」と答えることを想定していなかったのだろう。無意識のうちにうぬぼれていたのだろうか。部長が亡くなった恋人のことを話してくれたから、家に上げてくれたから、だから「Yes」と言ってくれるに違いないと、心のどこかで思い込み、一人舞い上がっていたのだろうか。
 なんと浅はかだったのだろう。少し考えたら、部長が「Yes」と答えることなどあり得ないと、簡単にわかるのに。
 そもそも私は、部長が頼ることのできるような器ではない。まだまだ人間としても、女としても未熟だ。私はきっと、部長のように、人を振るときにその人のことを極力傷つけないようにすることまでは、考えを及ばせられない。

 目の前にあるワインを見た。このワインの封が切られることはないのだろう。きっと、永遠に。どうしてバーテンは、このワインを選んで持ってきたのだろう。恨み節になるのは、何でもいいから当たりたかっただけだ。カロン・セギュール。皮肉にも、私が唯一逸話を知っているボルドーワインだった。
 所有者が、ラフィットやラトゥールといった最高級シャトーを差し置き、「私の心はカロンにある」と断言するほど惚れ込んでいたシャトー、カロン。エチケットにハートシェイプが使われるようになったゆえんでもあるその逸話がロマンチックで、強く印象に残っていた。けれど今、私のところからはそのハートシェイプは半分しか見えない。

「おまえは容姿端麗で、仕事もできる」。手放しで喜ぶべき褒め言葉のはずなのに、私にとっては死刑宣告にほかならなかった。容姿も仕事のセンスもいらない。誰もが褒めたたえるラフィットやラトゥールではなく、部長ただひとりが心を預けてくれるカロンになりたかった。けれど部長にとってのカロンは、亡くなった彼女でしかあり得ないのだ。
 涙のひとつも出なかった。もはや哀しいのかどうかさえわからなかった。空のワイングラスに、オレンジのルージュを引いた私の顔が映る。せっかくのルージュも、口角が引き下がっているせいでくすんで見えた。




web拍手 by FC2

コメント

コメントを投稿


管理者にだけ表示を許可する
 

トラックバック

TB*URL

PrevEntry |  to Blog Top  | NextEntry
What's new?
ほそぼそと、また連載再開してます。月一くらい目指せればと。

▶ 連作短編集を始めました。クレ海学生パラレルです。今後年中行事に合わせて不定期更新の予定です。詳しくはこちらからどうぞ。

▶ こちらは作品展示専用です。コメントへのお返事は別ブログにて行っております。
カテゴリー
最新記事
月別アーカイブ
全記事表示
Counter
プロフィール

篁かすみ

Author:篁かすみ
篁かすみ(たかむら・かすみ)と申します。
都内某所にひっそりと生息。
寝ても覚めてもクレ海のことを考えています。

このブログは作品展示専用です。
いただいたコメントへのお返事は別ブログにて行っております。
どうぞお気軽にコメントお寄せくださいませ^^

 

Copyright ©蒼穹楼. Powered by FC2 Blog. Template by eriraha. Photo by sozai-free 2000px.