蒼穹楼

クレ海至上主義の管理人がおくる、妄想小説連載ブログ。

8 AM

短々編

以前拍手に掲載していたものです。掲載時から若干の加筆修正を加えています。
クレフは大人バージョンに置き換えてください。

本文は「続きを読む」からどうぞ。





 セフィーロに来るたび、目覚ましなしで起きることの素晴らしさに感動する。それと同時に、どうして東京でもこうやって目を覚ますことができないのかと、ため息がこぼれそうになる。
「どうした?」
 そんなわけで、朝。どうやら本当にため息をついてしまっていたらしいと気づいたのは、上からテノールの声が降ってきたときのことだった。――ん、「上から」? そう、「上から」。
 顔を上げると、ヘッドボードに背を預け、背後から射し込む柔らかい朝日を手がかりに分厚い本を目で追いかけているクレフの姿。文字どおり、後光が差しています。そうして真面目な顔をしているあなたが好きよ。サークレットを戴かない額は前髪に隠れてしまい、まるで女性のように美しい顔立ち。思わず見惚れてしまうじゃない――って、そうじゃなくて。

「クレフ」
 彼の問いかけはきれいに無視して、憮然と名を呼ぶ。クレフの視線は本から上がらない。ただ、片手がすっと伸びてきて、私の頭を優しく撫でる。聞いている、という意志表示。
「聞きたいことが三つあるんだけど」
「一つだけなら答えよう」
 そう来ると思いました。
 頭を撫でるクレフの手をつかむ。するとようやく、クレフの視線が私のそれと交わる。ああ、この余裕綽々の表情。あらかじめ負けが決まっている勝負を前にしている気分。
「あなた、ちゃんと寝たの?」
 三つの疑問の中から、私はちゃんと一つを選び抜いた。こんなにもむつかしい選択が世の中にあるとは思えないような選択。けれどどれを選んだところで、答えはもうわかっていた。

 したり顔でほほ笑んだクレフが、彼の腕をつかんだ私の手に器用に自らの手を絡めてくる。タコの足って、きっとこんな感じに動く気がする。
「もちろんだ。あれから夜が明けるまで、今夜は三時間も寝られた」
 おかげで今朝はすっきりと目覚められた。そう答えたクレフに、思わずまたため息が出る。ため息を理由に視線を外し、俯いた。けれどそこには、紅くなった頬を隠すという目的もあった。「あれから」という言葉が、思い出すだけで面映ゆい夜を、私の脳裏にまざまざと呼び起こした。
「三時間『も』寝られた、なんて、きっと誰も言わないわよ」
 そんなことはないかもしれないと、言ってから思った。たとえばアメリカの大統領は、もしかしたら、三時間も寝ればいい方かもしれない。
 チャンスを逃すといけないので、ここで残り二つの疑問を覚書。ひとつは、「こんな朝早くから仕事してどうするの。何か大切な会議でも迫ってるの?」。そしてもうひとつは、「どうして裸のままで本を読んでるの?」。

 絡まっていた指が離れ、クレフの手が、また私の頭を撫でる。たまに髪をすくって、そこに口づけ。それが何気に好きな私は、頬を染めずにはいられない。
 こういう朝の迎え方が当たり前になって、もうどれくらい経つかしら。その疑問は、たまに私の脳裏を過る。クレフの外見がまったく年を取らないので――もちろん、出逢ったときに比べたらかなり取ったけれど――、なんだか時間の感覚が麻痺してしまいそうになる。でも、私は最近22回目の誕生日を両親に祝ってもらったし、その直前には大学の卒業式もあった。ということは、それだけの時間が流れているということで。とどのつまり、こういう朝の迎え方が当たり前になってからはもう四年の月日が流れているということだ。
 四年。改めて考えるとびっくりするような長さのようでもあり、あっという間だったようでもある。
「おはようございます、導師クレフ」
 密かに感慨に浸っていると、不意に続き間になっている執務室の扉がノックされて、聞き覚えのある声がした。
「本日は9時にイーグルたちが来る予定です。その前に、目を通していただきたい書類があるのですが」
 扉が開いているわけでもないのに、その声ははっきりと耳に届いた。それだけ彼女が声を張り上げているということかしら。とにかく、クレフはこれで完全なお仕事モードになりそうね。

 ほぼ半日クレフを独り占めしたのだし、文句なんかない。それに、仕事をしているクレフを見るのが結構好きだったりする。私はクレフの手からすり抜け、せめてもの恥じらいにシーツで胸元を隠しながら、ベッドから足を下ろした。――のだけれど。
「きゃっ!」
 思わず悲鳴が上がったのは、突然後ろに強く引っ張られたから。立ち上がりかけていたところだったから、その衝撃は結構大きかった。なになに、どうなってるの。混乱した直後、気がつくと私は、いつの間にかベッドに横になっていたクレフにすっぽりと抱きすくめられていた。
「え、ちょっと」
「しっ、静かに」
「え、いや、『静かに』って、だって」
「導師クレフ。いらっしゃらないのですか?」
 また声が聞こえてくる。ちょっと、と私はクレフを見た。このひとまさか、居留守使う気なの?
「クレフ、まずいわよ。プレセアに折檻されるわよ」
「構うものか。書類など、いつでも見られる。だがおまえは、あと数時間で帰ってしまう」
 もう、どうしてこういう恥ずかしい台詞を恥ずかし気もなく口にできてしまうのかしら。聞かされる方の身にもなってよね。ぶつぶつと呟きながらも、クレフの腕からは抜け出せられない。そうして完全に、彼のペースに乗せられていく。

「イーグルが来る前には必ず書類に目を通していただきますからね!」
 扉の外から盛大なため息が聞こえてくる。プレセアはたぶん、クレフが居留守を使っていることをわかっていると思う。それでもこうして放っておいてくれるのは、プレセアの優しさ――ではなくて、ただ単に折檻を楽しみにしているだけだろう。
「知らないわよ、どうなっても」
 ちらりと上目遣いにクレフを見て、言った。
「構わないと言っただろう」とクレフは笑った。
 そんな表情を見ていると、こういうのも悪くないかなと思えてくる。
「甘えんぼさんね」
 手を伸ばして、クレフの頬に人差し指を埋めてみた。
 クレフとこういう関係になって、確かにもう四年が経つ。でも、クレフがわがままを言ってくれるようになったのはここ半年くらいのことだ。
 なんだか嬉しかった。ようやく本当の意味でのカップルに近づいている気がする。
「何がおかしい?」
 私が突然くすくすと笑いだしたので、クレフは訝しがった。ううん、とかぶりを振り、クレフの胸元に顔を埋める。いい匂いが、全身を満たしていく。
「居留守も悪くないかなって」
 折檻されるのはクレフだし。そう思ったのは内緒。
 流れるように、そのまま一度肌を合わせた。「起きたくない」なんて、普段は冗談でも絶対に言わないようなクレフの冗談に笑いながらベッドを出たのは結局、9時15分前。

 私の目論見が甘かったことに気づかされたのは、大広間に着いてからのことだった。
 二人分だけ残されていた朝食のうち、クレフはパン一枚をおざなりにくわえただけで、驚くようなスピードで書類に目を通していく。朝だからという理由ではなくてぼんやりとした頭でその様子を見ながら、私は一人、ゆっくりと朝食を味わっていた。お皿にふと影が差したのは、9時5分前。見上げると、そこにはプレセアが立っていた。
「ウミ」
 思わず鳥肌が立った。プレセアは声も口元もにこやかだったけれど、目が全然笑っていなかった。
 なに、と言う前に雷が落ちた。まさかの折檻のターゲットにされて、私は驚く間もなく、ただされるがままになっていた。「クレフを止められるのはウミだけなのにそれをやらなかった」というのが折檻の理由だった。否定できない。ごめんなさい、と言うしかない。

 しれっとした様子で書類に目を通し続けるクレフに、この裏切り者! と思わないわけでもない。けれど居留守も悪くないなと思ったのは私も同じだから、黙っておく。
 わがままを言ったクレフがかわいかったな、なんて思って、ついくすりと笑ってしまった。直後、またプレセアから雷が落とされたのは、残念ながら言うまでもない。




8 AM 完





たしか、ものすごく甘い話が書きたくて書いた……ものだったような気がしますw
ここまで読んでくださってありがとうございました^^

2014.02.16 up




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都内某所にひっそりと生息。
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