蒼穹楼

クレ海至上主義の管理人がおくる、妄想小説連載ブログ。

ブルーバード

短編

ええと、ちょっと長編に疲れたので、短編を書いてみました。
『残響』の反動で、甘めです。クレフは大人バージョンがいいと思います。

本文は「続きを読む」からどうぞ。





 ホルターネックの真っ青なビキニに、腰から下は、オリエンタルな柄の施された薄いシルクのパレオ。アップスタイルにした髪には特に飾りをつけていない分、耳にぶら下がる大ぶりのイヤリングが、おそろいのネックレス、ブレスレットとともに華やかさを添える。それが今、鏡に映っている私の姿だ。自分で言うのもどうかと思うけれど、悪くない。ただ、煌びやかな服装とは対照的に暗く沈んだ表情だけは、全体のスタイルから大きく浮いていた。
 私は肩で大きく息をつき、姿見の後ろに手を廻してカバーをかけた。映っていた私が見えなくなる。自棄になった気持ちをそのままぶつけるようにソファに身を投げ、またため息をついた。電気をつけなくても、満月が部屋の中をじゅうぶんすぎるほどに明るく照らしている。ソファの背もたれに腕をかけ、その腕を枕代わりにして寝そべった。開け放たれた窓の外に見える海には、歪んだ形をした月が浮かんでいた。

 ふと羽音が耳を掠めた気がして顔を上げると、長い尾を持ったセキレイが窓枠に留まっていた。澄んだ蒼い瞳にきょとんと覗き込まれて、自然と口元が緩んだ。
「心配してくれてるの?」
 セキレイが喉を鳴らす。光のように動物の言葉がわかる能力は私にはないけれど、今のが肯定の意思を示したしぐさだったことはなんとなく理解できた。
「ありがとう。だいじょうぶよ、何かあったわけじゃないから」
 けれどセキレイは、納得いかないとでも言いたげに首を傾げた。その様子に、私は思わずほろ苦く笑った。
「本当よ。『何もなかった』んだもの」

 今日はタトラとタータの誕生日パーティーだった。二人の誕生日は三日違いで、その前後に毎年チゼータで盛大なパーティーが開かれる。今年は二人のたっての希望で、初めてセフィーロで開かれることになった。チゼータ、セフィーロ両国のみならず、オートザムやファーレンの人々も集まって盛大な会になった。会自体は成功裏に終わった。タトラもタータも楽しそうにしていたし、私自身、たくさんの人と話をすることができて有意義な時間を過ごさせてもらった。今日のためにタトラたちが特別に貸してくれたこのチゼータの衣装も、多くの人から「似合っている」と褒められた。でも、たとえ百人と話をすることができて百人から褒められても、たった一人の人の言葉と存在には絶対にかなわない。今日はそれを改めて思い知る一日になった。

「今日はクレフ、結局一言も口を利いてくれなかったわ」
 セキレイを相手に、ため息交じりに言った。
「わかってるのよ。忙しい人だし、私一人にいちいち構ってる暇はないって。でも、だからって、あんな風に見せつけるみたいに女の人をはべらせておかなくたっていいじゃない」
 開宴からお開きまで、クレフは終始いろいろな国の偉い人に囲まれていたけれど、同時にたくさんのきれいな女の人に取り囲まれてもいた。自分の恋人がそうして注目を集めているのを見て誇らしい気持ちになったのは最初のうちだけで、すぐに不安が心を席巻した。そして思うようになった。本当に、私なんかがクレフの彼女でいいのだろうかと。

「最後までクレフのそばにいた人……すごく、きれいな人だったわ。出るところは出てるのに、腰は私より全然細くて。話し方も優雅だし、周りのことによく気がつくし。女の私でも見惚れちゃうくらい、いいオンナだった」
 タトラたちの従妹に当たるというその女性は、チゼータでも評判の器量よしらしく、パーティーのあいだも彼女を追いかける視線がいくつもあった。そんな女性とクレフとのツーショットは、正直悔しいくらいにお似合いだった。私なんかよりも、大人の女性としての魅力を備えたああいう人の方がクレフにはふさわしいんじゃないか。そう考えてしまった私は、愚かだろうか。
「そりゃあ、あんなに魅力的な人がいたら、私のことなんか霞んじゃうわよね。きっとクレフも、こんな私と一緒にいるのが厭で、近づいてこなかったんだわ」
「誰がそんなことを言った」
 突然割って入ってきたそれは、聞こえるはずのない、聞こえてはいけない声だった。
「……え?」
 私は忙しなく瞬き、はたと顔を上げた。目の前には変わらずセキレイがいて、そのつぶらな蒼い瞳に私が映っている。まさかこのセキレイが、今の声の主なのだろうか。思わずそんなことを考えたけれど、いくらなんでもそれはあり得ない。であれば空耳だろうと、私はごまかすように肩を竦めた。ところがその次の瞬間のことだった。ソファの空いたスペースが突然光り出したかと思うと、急にクレフが現れた。彼は仏頂面をして足と腕を組み、まるでずっとそうしていたかのように、正面を向いて悠然とソファに座っていた。私は絶句した。

「え……あの」
 本能的に何か言わなければと思い、口を開いた。けれど間髪容れずクレフに横目できつくにらまれたために、二の句は告げなくなってしまった。覚えず後ずさってしまう。するとクレフがこれ見よがしなため息をついた。
「まったく。終始浮かない顔をしていたとは思ったが、そんなことを考えていたとはな」
「な……」
 さらりと放たれたクレフの言葉は、私の羞恥のボルテージを一気に最高潮まで引き上げた。
「どっ、どういう意味よ。私、何も――」
 そのときふと、まるでタイミングを見計らったかのようにあのセキレイがクルッと喉を鳴らした。思いなしか満足げな顔をして、私とクレフを交互に見ている。私ははっと息を呑んだ。まさか、「そう」いうことだったのか。
「グルだったのね。あなたたち」
 『導師』なだけに。
「は?」
「このセキレイよ。あなたがよこしたんでしょう。セキレイを通して、私の独り言を盗み聞きしていたのね。ひどいわ。いくら魔法が使えるからって、やっていいことと悪いことがあるじゃない」
「それは誤解だ。おまえの独り言を聞いていたのはそのとおりだが、私が意図的にやったことではない。おまえの様子が心配だと言って、この鳥の方から私のところへ『心』を飛ばしてきたのだ。私が無理にそうしてくれと頼んだわけではない」
 私はセキレイに目を向けた。セキレイは視線に応えるように小さく鳴いたけれど、何を言いたいのかはさっぱりだった。このときほど、動物の言葉がわかればいいのにと思ったことはなかった。
「もっとも、私がおまえの様子を気にかけていたことは事実だが」
 クレフの瞳が真っすぐに私を射抜く。その瞬間、忘れかけていた羞恥心が再び荒波となって私に襲いかかってきた。とても目を合わせていられなくて、私は思い切り顔を逸らし、クレフに背を向けた。

 真実はどうであれ、クレフに私の心情が筒抜けだということは、残念ながら事実として受け止めなければならないようだ。まさかあの独り言を全部聞かれていたなんて、恥ずかしすぎる。穴があったら入りたい。そしてその穴に頑丈な蓋をして、もう二度と出られないようにしてしまいたい。
 そもそもクレフだってひどい。あんな醜い独り言を聞きつけて、わざわざ部屋までやってくるなんて。どうせからかいに来たに決まってるんだから。「おまえもまだまだ子どもだな」。そんな台詞とともに見せられそうなドヤ顔が目に浮かぶ。そこでうまい切り返しができるほど、残念ながら私はまだ、人間として成熟していない。
「ど……どうせ子どもよ。私なんて」
 それならばと、先手を打つことにした。
「つまんない嫉妬はするし、余裕はないし、すぐ不安になるし。感情の起伏も激しくて、大した美人でもなければ、むっ……胸もないし!」
 もう自棄だった。
「放っておいてよ、私のことなんか。どうせ、二次会で盛り上がってたところを抜け出してきたんでしょ? 早く戻ってあげなさいよ。きっとたくさんの人が、あなたを待ってる――きゃっ」
 突然手首を後ろにぐっと引かれ、語尾が悲鳴に取って代わられた。バランスを崩した体はけれど倒れ込むようなことにはならず、腰に廻された腕に支えられ、そのひとの胸に寄りかかる恰好となった。

「私がなぜ、宴の最中おまえに近づかなかったと思う?」
 気を抜いていた耳元で囁かれ、意志とは無関係に肌が粟立った。
「手が届く距離におまえがいれば、こうして触れたくなる」
 クレフの手が私の手を覆い、ゆっくりと撫でる。
「一度触れてしまえば、離したくなくなる」
「やっ……」
 腰を抱いた腕に少し力が込められたときに指先がくびれを掠めて、私は思わず声を上げた。反射的にクレフの腕を剥がそうとしたけれど、もう一方の手にやんわりと制せられてしまった。
「触れ続けていれば、奪いたくなる」
 耳の後ろに熱い吐息がかかり、大ぶりのイヤリングが揺れて音を立てた。どんなに理性を保とうとしても、首筋を這う唇と舌の感触に全身が反応する。うなじをくすぐる、私のものではない髪の毛にさえ細かい鳥肌が立つ。堪えきれずにこぼした息が濡れていることを自覚して、私は思わずぎゅっと目を瞑った。
「おまえは私のものだと、皆に知らしめてやりたくなる」
 刹那強く首元を吸われ、ピリリと甘い痛みが走った。すっかり力の抜けていた私は、ホルターネックが外されるのを不覚にも簡単に赦してしまった。
「やだ、クレフ……っ!」
 慌ててビキニが肌蹴るのを押さえようとしたけれど、熱に浮かされていた私の動きはどうしても緩慢で、クレフの手が割って入るのは簡単だった。
「あ……」
 心よりも先に体が反応する。ピクリと跳ねた肌は、いつしか月明かりの下でもそれとわかるほど桜色に染まっていた。

「だから近づかなかったのだ」
「え……?」
「自制していたのだぞ。だが当のおまえはといえば、このように扇情的な恰好をして。案の定、皆がおまえを見ていたではないか。そうして私の妬心を煽るつもりだったのか」
「そ、んなこと……」
 クレフが言葉を紡げば、唇が耳に当たる。そのたびに、私の体の中心をぞくぞくとしたものが這い上がる。クレフはわざとそうしているに違いなかった。
 私は無意識のうちに足を摺り寄せていた。パレオが擦れて柔らかい音を立てる。そのパレオを解く指がほんの少し脇腹を撫で上げただけで、奥が疼いた。
 ふとクレフの手が戯れに私の顎を捉え、引き上げた。唇が塞がれ、喉の奥で声がくぐもる。絡み合う舌が、艶めかしい水音を響かせる。そのあいだにも、骨ばった手が、あらわになった膨らみをもてあそぶ。たとえば人前で私の手を取るときなどとはまったく違うその官能的な手つきが、容赦なく私から思考を奪っていく。
 もう、何も考えられない。

「おまえだけだ」
 親指で私の唇をなぞりながら、クレフは言った。
「どれほど華美なものも、私の心には響かない。私が欲しいと思うのは、おまえだけだ。わかるか」
 ぼうっとする頭に、クレフの言葉はまるで媚薬のように響いた。私はゆっくりとうなずき、クレフの首の後ろに両腕を廻した。
 重なる体が、互いの熱を求め合う。心に巣食っていた醜い感情も、いつの間にかその熱に溶けていた。いったい何をあれほどいじけていたのか、自分のことなのに、今となってはもう思い出せなかった。

 夜が始まる。沈み込む二人を見届け、セキレイがそっと飛び立っていった。




ブルーバード 完





クレフにとっての海ちゃんは、長いあいだ「青い鳥」だったんだろうなと。
それに気づいたら、あとはもう特製の鍵を施した鳥籠から出さない感じで(笑)

ここまで読んでくださってありがとうございました^^

2014.04.12 up




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2014.04.12    編集

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篁かすみ(たかむら・かすみ)と申します。
都内某所にひっそりと生息。
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